オリンピックへの道BACK NUMBER
ジャンプ伊藤有希、悲願の初メダル。
元・天才小学生を変えた2つの転機。
posted2015/03/01 10:35
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
2本目を飛び終えたあとのガッツポーズと笑顔が象徴的だった。そしてそれは、1つ、殻を破った瞬間でもあった。
2月18日、スウェーデン・ファルンで開幕したノルディックスキー世界選手権。20日に行なわれた女子ジャンプで伊藤有希が銀メダルを獲得した。
1本目で4位につけた伊藤は、2本目で会心のジャンプ。93mの最長不倒を飛び、2位へと順位を上げて終えた。
世界選手権は3月1日まで続くが、2月25日現在、個人種目では日本勢唯一のメダルである。
「ずっと悔しい思いをしてきました」
と、伊藤。その言葉の通り、何度も苦い思いを味わいながら、初めて手にした世界選手権個人種目でのメダルだった。
小学生時代から活躍も、高校時代に足踏み、そして高梨沙羅の台頭。
女子ジャンプと言うと、どうしても高梨沙羅の印象が強い。だが現在二十歳の伊藤もまた、長いキャリアを誇り、日本代表として活躍してきた選手である。
伊藤の名が広く知られることになったのは2007年、小学6年生のときだ。現在のワールドカップの前身にあたる国際大会で3位になった。大会史上最年少での表彰台という結果は、「スーパー小学生」という肩書きとともに報じられた。
'09年の世界選手権には中学2年生で出場。'11、'13年の世界選手権にも出場し、'11年には世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得するなど、常に日本代表として活躍してきた。
ただ、高校時代は、国際大会でも二桁順位が珍しくなくなるなど、苦しい時期が続いた。伊藤が足踏みする一方で、2つ歳下の高梨が台頭していた。
伊藤は当時をこう振り返っている。
「下川町は小学生から高校生までみんなで一緒にトレーニングをします。30人の中の一人で、全体へ向けたアドバイスを自分に合わせて聞いたりしてはいましたが、個人としてのアドバイスを聞くのはなかなか難しかったです」