REVERSE ANGLEBACK NUMBER
『KANO』に見る、強いチームの作り方。
ヒューマニズムではなく、監督として。
posted2015/02/19 10:40
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
ARS Film
嘉義農林が戦前の甲子園大会に出場したことは知っていた。その学校の出身で、ジャイアンツ、タイガースなどで活躍し、「人間機関車」というニックネームで親しまれた呉昌征のことも知識としては頭に入っていた。
しかし、嘉義農林を描いた映画『KANO~1931海の向こうの甲子園~』は知らなかったことをいろいろ教えてくれただけではなく、現代的なチーム作りということまで考えさせてくれるなかなかの力作で、9時からの朝1番の回に駆けつけた甲斐があった。
甲子園に来たほかの台湾の学校を知らなかったので、漠然と嘉義農林は台湾で飛びぬけて強かったのだろうと考えていたのだが、それは大きな間違いだった。松山商業出身の近藤兵太郎監督が就任するまではほかの学校に一度も勝ったことのない弱小チームだったのだ。
その弱小チームを、近藤監督が鍛え、甲子園に連れてゆき、決勝戦まで勝ち進むというのがストーリーの骨格である。
永瀬正敏演じる近藤監督は、昔でいう星一徹。
永瀬正敏が演じる近藤監督はいつも怖い顔でほとんど笑うことがなく、きびしい姿勢で選手を鍛え上げてゆく。『巨人の星』の星一徹、最近のマンガでいえば『ダイヤのA』の監督みたいな、われわれにはなじみのあるキャラクターで、台湾の制作陣がそういうキャラクターを造形しているところが面白い。
ただ近藤監督はきびしいが、暴力をふるったり、理屈に合わないシゴキのようなことはしない。魔術的な特訓などもない。監督はうれしいと跳び上がり、悲しいと大泣きする台湾の生徒たちに、抑制を求める。生徒たちもいわれればそうするが、でも結局は泣いたり笑ったり。それに感化されたように、監督も最後は笑顔を見せる。このあたりの互いの浸透具合もなかなかいい感じに描かれている。
ただ、この映画は、規律のない弱小チームがきびしい監督に鍛えられて強くなるというオーソドックスなストーリーを踏襲してはいるが、テーマはほかのところにある。