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日本女子はなぜ5分以上遅くなったか。
マラソンと駅伝を巡る不都合な真実。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2015/02/15 10:50
現在マラソンの世界記録はポーラ・ラドクリフの2時間15分25秒。2003年の記録であり、10年以上更新されていない。世界に追いつくための時間はまだ残されている。
駅伝を優先せざるを得ない、選手と指導者の実情。
かといって、練習量をすぐさま増やせばいいというわけでもない。高橋、野口らが練習を豊富に積み重ねることができたのも、そのための体作りがなされていたからこそだった。
また、現場の指導者に「もっと練習量を」と迫ればいいわけでもない。
昨年、一昨年と全日本実業団女子駅伝を取材し、その他の機会でも耳にしたのは、駅伝を優先せざるを得ない事情だった。
選手やコーチの所属する実業団チームからすれば、駅伝は晴れ舞台だ。企業の名前がクローズアップされる場であるし、会場に駆けつける応援団の姿を見ても、マラソンよりも駅伝に力を注いでいるのが分かる。
「故障者なく、ここにベストメンバーをそろえたいですからね」
そう語っていたコーチもいる。必然的に、故障を怖れて練習の量も減っていく。
もちろん、故障ありきの練習には問題がある。ただその結果として、マラソン界全体で日本女子全体の記録が低迷し、国際大会でも好成績を残せなくなっている現実が生まれている。
ナショナルチームの存在は意識改革につながるか。
苦しい状況を打開しようと、昨年4月からはマラソン強化のための新しい体制も採られてきた。陸連が「ナショナルチーム」を編成し、選抜された選手とコーチが合同で合宿を実施する、というものだ。
その場で厳しい練習を行なう、というばかりが目的ではない。むしろ選手に世界で戦う意識を持たせる、取り組む姿勢を変えていくための機会にしようとしている。
マラソンを最優先しないのであれば、世界のトップを狙う気持ちは当然生まれない。それが練習の質や量にも影響する。高橋、野口らが厳しい練習をすることができたのは、マラソンで世界で勝つという意志がはっきりしていたからだ。