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相撲は低く当たった方が本当に有利?
逸ノ城で考えた“欠点”と伸びしろ。
posted2015/01/21 10:30
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
Kyodo News
初場所に出かけたのは5日目。午後から冷たい雨が強くなり、風も吹きはじめた。力士幟がバタバタはためいている。さすがに今日はお客も少ないだろうと思って国技館に入ると、満員御礼の垂れ幕が下がっていた。上段のイス席もほとんど空席がない。若貴ブームのころとまではいわないが、ここ10年ほどでは見られなかったような活況で驚いた。
こういうときはもっともらしくメモなど取ったりせず、のんびりにぎわいを味わうのが正しい見物態度かもしれないが、それでは申し訳ない。気になることもあったので、幕内の最初の一番から1点だけチェックして見てみることにした。
注意したのは立ち合いのまわしの位置。当たった瞬間どちらの力士が低かったかを比べてみたのだ。なぜそんなことをしたかというと、逸ノ城の相撲でずっと気になっていたことがあったからだ。
逸ノ城の立ち合いはだいたい相手よりも高い。ファーストコンタクトのとき、まわしの位置が相手より低くなることはまずない。よくて五分。これは圧倒的に不利ではないか。幕に上ってからのことではなく、十両のころからそうだった。なのに成績はご存知の通り。まだ一度も負け越さずに、初土俵から1年で関脇を務めている。
立ち合いの高い、低いは勝ち負けとあまり関係がないのか。だったら実際に確かめてみようと考えて、「ファーストコンタクト時のまわしの位置」をチェックしてみることにしたわけだ。
低く当たった力士の勝率がやはり高い。
この日の幕内の取組は21番あった。そのうち立ち合いでまわしの位置が低かった力士が勝ったのは11番。高くても勝ったのが5番。あとはほぼ五分の立ち合いでの決着だった。もちろん何度もVTRを見て正確に検証したわけではなく、現場での見た目の結果だが、この結果だけでも低くあたるほうが有利なことははっきり分かった。
低いあたりの効果は一気の寄り、押しなどにだけ効果を発揮するわけではない。10秒を超えるような「長い」相撲になっても、最後は立ち合いが低かったほうが勝つケースも見られた。相撲は決まり手に注目が行きがちだが、実は決着に至るまでの体勢の争いが大半を占めるといってもよい。有利なポジションをいかに作るか。土俵際で上から力任せにのしかかるより、腰を落としたほうが楽に相手に土俵を割らせることができるのはだれもが知っている。