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相撲は低く当たった方が本当に有利?
逸ノ城で考えた“欠点”と伸びしろ。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byKyodo News

posted2015/01/21 10:30

相撲は低く当たった方が本当に有利?逸ノ城で考えた“欠点”と伸びしろ。<Number Web> photograph by Kyodo News

昨年九月場所で13勝2敗という衝撃的な幕内デビューを飾った後、十一月場所では8勝7敗と苦戦した逸ノ城。果たして今年はどこまで番付を駆け上がることができるのか。

逸ノ城を研究し、対策する力士が増えてきた。

 立ち合いの高低とその後の体勢作りではっきり明暗が分かれた取り組みがふたつあった。大砂嵐の相撲と照ノ富士が鶴竜に負けた結びの一番がそれだ。大砂嵐はかち上げ、照ノ富士は張り差しを狙っての立ち合いだったが、ともに微妙にすかされて、効果的にヒットさせることができなかった。どちらものど元や顔など高い位置を狙うので、どうしても立ち合いが高くなる。その上的確にヒットさせることができなかった。ふたりとも今場所好調で、動きもよく、善戦したのだが、最後は立ち合いのツケを払うように土俵を割ってしまった。

 解説の親方などが、よく、「低くあたって」と繰り返す理由がよくわかった。

 さて、問題の逸ノ城だ。この日は高安との一番。右四つをねらって右腕を前に出すようにしての立ち合いだったが、ねらいは高安も十分承知していたようで、その右腕をすばやく取っておっつけた。高安のあたりが低かったこともあり、下から腕を掬われるような形になった逸ノ城は体が反転してしまい、うしろを取られて送り出されてしまった。完敗といってよい。

 この一番に限らず、入幕3場所目の逸ノ城に対して、相手がよく研究していると思わせる取り組みはずいぶん増えた。この記事は中日が終わったところで書いているのだが、もしかすると、今場所ははじめて負け越すことになるかもしれない。

改善可能な欠点は、むしろ伸びしろを意味している。

 では、「怪物」もただの人だったというありがちな結論に落ち着くのか。それは逆だ。

 低く入った力士のほうがそうでない力士よりも圧倒的に有利。あの白鵬でさえ、よく見れば低く入った時のほうが安定した取り口になる。その中でだいたい相手よりも高くあたる逸ノ城が、それでもここまで一度も負け越さずに来て、大関を狙う位置にいるというのは恐るべきことではないか。

 その取り口を見ていて似たような例を考えてみた。たとえば野茂英雄。コントロールに難があり、毎回のように四球の走者を背負って投げていても、あれだけの成績を残した。たとえばディープインパクト。スタートが下手で、ゲートが開くとたいてい出遅れた。武豊が振り落とされそうになったこともあった。それでもゴールでは差をつけて圧勝した。

 そうした癖、個性に比べると逸ノ城の立ち合いはまだまだ改良の余地がある。改良され、立ち合いのまわしの位置が相手と常に五分になったらどれだけの星を残すことか。

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逸ノ城

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