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球界の盟主の座をかけた、
男たちの戦いの記録。
~西武と巨人のドラフト10年戦争~
text by
春日太一Taichi Kasuga
photograph bySports Graphic Number
posted2013/08/19 06:00
『西武と巨人のドラフト10年戦争』 坂井保之+永谷脩著 宝島社 1300円+税
郭泰源を巡る札束の戦い、そして「KKドラフト」。
もちろん、ただ情報戦を制するだけで獲得に至るほど甘くはない。最重要なのは、札束だ。金を求める選手と、そこにつけ入るスカウトたち――そのあたりの生臭い部分も克明に記されている。中でも、台湾の剛球投手《オリエンタルエクスプレス》郭泰源との交渉場面は圧巻だ。
多額の現金を手に台湾に潜入した西武の幹部たちは、入管や公安の目を誤魔化しながら郭に接近する。が、その前には当時の読売の監督で、現地の名士でもある王貞治が立ちはだかる。読売もまた、郭獲得に動き出していたのだ。しかも、既に「好きな数字を書いていい」と金額欄の書かれていない小切手が郭に渡されている。ここから、どう逆転するのか。繰り広げられる駆け引きには、野球に興味のない読者でも手に汗握ることだろう。
そしてクライマックスは、'85年のドラフト。PL学園のエース・桑田真澄と主砲・清原和博がそれぞれに明暗を分けた運命の一日だ。当時は私も野球にハマり出した時期だったので、それなりに裏事情を把握しているつもりでいた。が、西武が清原を獲得できたのは、読売の両取りを阻むために仕掛けた情報操作が功を奏していたからだというのは、本著を読むまでは全く知らなかった。
「戦いだ。情報は多ければ多いほどいい」
汚れ仕事も厭わずになり振り構わず「盟主」に挑んでいく姿には、ピカレスク的魅力すら感じてしまう。あの頃、他チームのファンをひれ伏させた「常勝西武」の背後には、さらに恐ろしく、そしてカッコいい男たちがいたのだ。