野ボール横丁BACK NUMBER
「興南の強さは普通じゃないですよ!」
選抜優勝からさらに成長できた秘密。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/23 11:55
9-2。
試合前、記者仲間と立ち話をしていて、これぐらいのスコアで興南が春夏連覇を達成するのではないかという予想を出していた。
だが、結果はそれを上回った。
13-1。
ただ、それはそのまま両チームの差だったように思う。
決勝進出を決めた直後、東海大相模のエース、一二三慎太が言った。
「本当に決勝にきたのかなー、って感じ。自分だけじゃなく、みんなもそんな感じです」
正直なところだったのだろう。この春の選抜大会では、大会ナンバー1投手として注目されながらも、なす術もなく初戦敗退しているのだ。
「あれから悩んで悩んで、コントロールが悪くなった。フォームとかも考え過ぎちゃって。何球も何球も投げたんですけど、だめだった」
結果、5月に入り、オーバースローからサイドに転向。制球は安定したものの、その後も試行錯誤は続いた。甲子園に入ってからも戦うごとに微妙にヒジの位置が高くなったり、低くなったり。決勝前日、監督の門馬敬治は、冗談ともつかないような口調で言っていた。
「まだ、『一二三進化』の途中だから。別にサイドスローに変えるって決めたわけじゃない。明日になったら、上から投げているかもしれないですよ」
ここ最近の夏の決勝戦は「完成」対「成長」の構図。
そんな東海大相模に対し、興南は明確に夏の甲子園の頂点に立つことを目標にし、準備にもぬかりはなかった。
興南の監督、我喜屋優は言う。
「準備もしないで目指すのは滑稽なことだと思っていますから。準備もしないのに目指すなんて、私は絶対に言わせない。何にもやらないで、神様に手を合わすのは男のやることじゃないよ、って。ちゃんと小さな目標をひとつずつ積み上げてきた。だから、甲子園にきてから私も連覇という言葉を使うようになった」
ここ最近の夏の決勝戦を振り返ると、こういう組み合わせが実に多いのだ。
「完成」対「成長」とでも言えばいいのだろうか。
もともと評判が高くほぼ完成に近づきつつあるチームと、前評判はそうでもなかったが成長著しいチームの顔合わせだ。
そして近年は、後者の方が勝率は高い。