野ボール横丁BACK NUMBER
「興南の強さは普通じゃないですよ!」
選抜優勝からさらに成長できた秘密。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/23 11:55
一二三の決勝前の完成度は「まだ8割ぐらいです」。
'04年夏は、北の新鋭、駒大苫小牧が春の王者の済美をやぶった。'06年夏は、斎藤佑樹を擁する早実が、夏の3連覇をねらっていた駒大苫小牧を再試合の末に負かした。'07年は無印集団だった佐賀北が野球王国広島の伝統校、広陵を土壇場で大逆転した。
そして記憶に新しいところでは、昨夏、敗れはしたものの、甲子園での勝率がもっとも低かった新潟代表の日本文理が、優勝回数最多を誇る中京大中京を最終回、2死走者なしから5点を挙げてあと1点というところまで追いつめた。
一二三は、決勝前の自分の完成度について、こう話していた。
「まだ8割ぐらいです」
だから、もし決勝戦で、一二三が「10割」になれば、あるいは東海大相模にも勝機はあるのではないかと思っていた。
だが、1回戦の段階でほぼ完成しているかに見えていた興南も、その伸び率は低いとはいえ、甲子園で確実に成長を続けていた。準決勝の報徳戦では序盤、5点リードされながらも、最終的には跳ね返している。
選抜でピークに達した高校は夏に甲子園へ戻れない。
我喜屋が振り返る。
「私はもう60歳になりましたけど、あの子たちが、日に日に三男坊から次男坊、次男坊から長男坊になっていったような、そんな成長を感じていました。報徳戦のときは、いったんは崖っぷちに追いつめられたような気持ちになりましたけど、『おい、おやじ、一緒にいこうよ』って、背中を押され、一歩一歩、歩いていったら勝てていたような。むしろ彼らの行動、言動をみて私自身が安心感を覚えるようになっていた」
興南は、準々決勝の聖光学院戦でも3点差を跳ね返している。もはやここまできたらチームの完成度も「9割9分」が「9割9分1厘」とか「9割9分2厘」になったという程度なのかもしれない。だがこれほどの結果を残しながらも、なお成長をあきらめなかったというところが興南のすごみなのだ。
春の段階でピークに達してしまうと、その数カ月後、夏にまたピークをつくるのが難しくなる――。それが高校球界の定説になっている。だから、選抜大会に出場した高校は、なかなか夏に甲子園に帰ってくることができないと言われるのだ。
我喜屋にその話をすると、一笑に付された。
「プロ野球選手じゃないんだから。高校生は毎日が発展。毎日、生まれ変わらせないといけない。それを実行してきただけ」