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ドルトムント16年ぶりのCL決勝進出!
“あと1点”をめぐるレアルとの死闘。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2013/05/01 13:25
「今日は負けたが、いずれにしても我々は決勝にふさわしいチームだったと思うよ。週末は(ブンデスでの)バイエルン戦だが、今晩の選手祝勝会を止めるつもりはないよ! 選手たちは操り人形じゃないんだから」と試合後にコメントしたクロップ。
トラブルで逆に安定を取り戻したドルトムントの守備。
監督、先発出場の選手たち、ベンチに座る選手たち、会場につめかけた多くのファンに、ボールボーイまで。この日のレアルの関係者は、置かれた立場でやれることを最大限にやっていた。そして、実際にそれだけの強さを見せてもいた。
しかし、皮肉なのは、この後だ。勝負の世界は、サッカーの世界は残酷である。
モドリッチに蹴られたS・ベンダーは交代を余儀なくされ、代わりにセンターバックのサンターナが送り込まれたことで、ドルトムントの守備は落ち着きを取り戻した。
それまで最終ラインにいたフンメルスがひとつ前の、S・ベンダーのいたボランチの位置に入る。通常ならば、怖くてDFラインをいじることなどできないだろう。ただ、これが見事にはまったのだ。ベンダーは横のゆさぶりにはうまく対応するが、空中戦にはそれほど強くない。最終ラインに最も高さのあるサンターナが入り、その前に空中戦にも強さを発揮するフンメルスが入ったことで、ドルトムントの守備は安定した。
ハワード・ウェブ主審は第4の審判員に5分のロスタイムを表示するように指示し、実際には後半だけで5分57秒のロスタイムをとったものの、レアルの猛攻がそれ以上のゴールを生み出すことはなかった。
GKバイデンフェラーが蹴ったボールがピッチを転々とするなか、ウェブ主審の試合終了を告げる笛はサンティアゴ・ベルナベウに鳴り響いた。
GKバイデンフェラーは芝に顔をうずめて何を思ったのか。
この試合に勝ったレアルは、勝敗を1勝1敗としたが2試合合計スコアで及ばず、この大会を去らなくてはいけない。レアルはこれで、3シーズン連続で決勝を前に涙を呑むことになった。最高のサポートをしてきたスタンドのファンが大きな拍手を送る。ロナウドは胸を張り、両腕を高くつきあげて、彼らに拍手を返していた。
一方のドルトムントはこの試合で、今シーズンのCLで12試合目にして初めて黒星を喫したものの、16年ぶりとなる決勝進出を決めた。最後に決勝に進んだのは、クラブ史上はじめてとなるCLのタイトルを獲得した'96-'97シーズンのことである。
トーナメントでは最もエキサイティングだとされるこの準決勝は、期待に違わぬスリリングな試合となった。そこに敗者はいなかった。世界最高の大会をここまで勝ち上がってきた偉大なチームが2つあるだけだ。
試合終了直後、ドルトムントのGKバイデンフェラーは顔を芝生にうずめたまま、上げることが出来なかった。彼の頭を巡っていたのは何だったのか。
セルヒオ・ラモスにゴールを許してから、心臓が止まりそうなほどの緊張を強いられた最後の7分間のことか。それとも、ドルトムントにやってきてからの11年間のことだったか。
試合前、彼はこう語っている。
「(以前所属していたカイザースラウテルンを離れる決断に際して)ドルトムントからのオファーを断り、実はブレーメンへ行こうと思っていたんだよ。でも、ドルトムントのファンの存在がまぶしく見えてね……。それで11年もドルトムントにいるんだよ」