ゲッツェの負傷退場で「奇跡」の確率は高まったが……。

　13分、レアルはレバンドフスキにペナルティエリア内でシュートを許し、ドルトムントに初めてのチャンスを与えたが、これをGKロぺスが見事なブロック。チャンスを与えたことなど気にもかけないかのようにレアルの選手たちはアクセルを踏み続ける。直後にはロナウドが後方からのパスをエリア内で反転しながら受けてみせる。相手GKと一対一の決定的場面だ。しかし、シュートはGKにブロックされてしまう。

　さらにこの直後、ドルトムントの攻撃の中心であるゲッツェが、左足太もも裏の筋断裂で、交代を余儀なくされた。3点差をひっくり返す。奇跡を起こす確率は高まった――。

　そして、その1分後のことだった。モドリッチのパスをイグアインがダイレクトで右サイドに送る。スピードに乗ったエジルがこれを受けて、そのまま右サイドを駆けあがる。時間は十分にあった。逆サイドでロナウドがフリーになっていたものの、エジルは、GKバイデンフェラーの動きをみて、右隅を狙ったシュートを放つ。

　しかし、これが決まらない。わずかに右に外れてしまった。

　この15分間で、レアルは7本のシュートを放ち、4度の決定機をつかんだ。3点差など簡単にひっくり返せるような空気がスタジアムを支配していた。ただ一つの誤算は、それでもゴールが生まれなかったということだ。

チームに安定感をもたらしたボランチのギュンドガン。

　対する、ドルトムントの選手たちからすれば悪夢のような15分間だった。とはいえ、エジルの決定機が外れてからは、レアル一辺倒だった流れが少しずつ変わり始める。

　そのきっかけを作ったのが、ギュンドガンだ。

「彼は攻撃と守備の正しいバランスをとってくれるんだ」

　クロップ監督が称賛するボランチが、チームを落ち着かせていく。

　味方が拾ったボールを呼び込む。あらかじめ周囲を見渡し、相手とボールの間にうまく体を入れてからパスを受ける。相手が足を出してくれば、それを避けるようにボールを置き、ときにパスを、ときにキープを試みる。相手の猛攻に晒されてばかりで、マイボールになったときにも落ち着きどころがなかったチームは、ひとまず彼に預けることで一息つけるようになった。

　ゲッツェが早々にピッチを去った中、攻撃で迷いを抱えつつあるチームにとっては大きな存在だった。準決勝の2試合を通して、もっとも安定したパフォーマンスを披露したのが彼であることに異論の余地はないだろう。

【次ページ】　たび重なるオフサイドが試合の空気を変えていく。