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フェブラリーSで会心の勝利を飾った、
グレープブランデーの周到なプラン。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byJIJI PRESS

posted2013/02/20 10:30

フェブラリーSで会心の勝利を飾った、グレープブランデーの周到なプラン。<Number Web> photograph by JIJI PRESS

グレープブランデーは一昨年のジャパンダートダービーでGI初制覇するも9月に右前脚蹄骨を骨折して約10カ月休養。昨年は6戦1勝も今年は東海ステークス、フェブラリーステークと2連勝。

 今年のフェブラリーステークスに出走した16頭はすべて牡馬だった。ところが、パドックを見たとき、1頭だけ牝馬が混じっているのではないかと思わず手に持った新聞を確かめた。

 牝馬に見えた馬は11番。1番人気に推されていたカレンブラックヒルである。カレンブラックヒルのこの日の体重は466kg。出走している馬の中で一番軽い。最も重かったエーシンウェズンとは70kg、大人の男ひとり分ほども体重が違う。

 ダートを得意にするのは大きな馬が多い。その中でも頂上決戦であるフェブラリーステークスには500kgを超える馬がずらりと顔をそろえる。大男たちの中にあってカレンブラックヒルは体重以上に小さく薄く見えた。

「こりゃあ、ねえなあ」

 隣で見ていた男が独り言をいった。こっちの気持ちをズバリといいあてられた。

 カレンブラックヒルはGIのNHKマイルカップを逃げ切ったスピード馬だ。ダートのレースに出るのははじめてだが、父のダイワメジャーはダートで圧勝したことがある。飛びぬけた馬がいない今年なら、この馬のスピードではじめてのダートも押し切れるのではないか。

勝利を飾ったグレープブランデー陣営の周到な準備とは。

 そんな期待で1番人気に支持されていたが、パドックを見て「これはない」と直感した。ダンプの中に1台だけセダンが混じり、悪路のレースに臨んでいるような感じで、パワー不足が致命傷になりそうに思えたのだ。

 案の定、序盤はやや出負けしながら先行集団につけて進んだが、直線を向くと全く伸びずに飲み込まれ、15着に惨敗した。

 勝ったのは体重526kgのグレープブランデー。この日の出走馬の中で4番目にデカイ馬だった。グレープブランデーだけでなく、上位4着までに来た馬はみな体重500kgを超える大型馬。テレビでやっているスポーツ選手が出るバラエティ番組の力持ち競争みたいな結果である。

 しかし、グレープブランデーが勝ったのはデカかったからだけではもちろんない(そうなら1番体重の多い馬が勝つはずだが、そのエーシンウェズンは13着だった)。

 冬場のダートのパワー勝負にふさわしい肉体的条件に加えて、グレープブランデーには周到な準備が備わっていた。

【次ページ】 蹄骨の骨折を乗り越えて、ダートへの適性を開花させた。

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