野球クロスロードBACK NUMBER
楽天がつかみ損ねた交流戦Vの夢。
“流れを変えたあの一球”を振り返る。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/06/16 11:55
大混戦となった今年の交流戦で、楽天が優勝できる可能性はもともと低かったかもしれない。
だが、昨年の交流戦で楽天より下位だったオリックスが優勝したとなると話は変わってくる。
もし野球の勝敗に流れというものがあるとすれば……楽天が10日の中日戦に勝利さえしていれば、続くヤクルト2連戦でも連勝していたはずだ。ヤクルト戦では、岩隈久志、田中将大の二枚看板が投げる。しかも相手は、調子を取り戻しつつあるとはいえ、交流戦、リーグ戦ともに下位にいるチーム。「優勝」という現実味のあるモチベーションが加われば、決して勝てない相手ではなかった。
10日から3連勝していれば、楽天の成績は16勝7敗1分の首位だった。オリックスは16勝8敗で勝率では並ぶが、この場合、1位は前年の交流戦の順位で決められる。仮に同率1位のチームが西武であれば優勝はなかったが、オリックスの'09年交流戦は10位の楽天よりも下の11位だった。
それだけに、10日の敗戦が悔やまれる。
それほど重みのある敗戦だった。試合後のブラウン監督のひと言がそれを物語っていた。
「初回の荒木の打球がすべてだった」
荒木の微妙な打球が二塁打となり……リズムが崩れた。
初回の荒木の打球。それで先発の井坂亮平はもとより、チーム全体のリズムが崩れた。
1回表。先頭の荒木雅博に対して、捕手の嶋基宏は相手の出方を窺うべくアウトローへ速球を要求した。そこへしっかりとボールが行けば、恐らく荒木は見逃していただろう。だが、井坂の手元から離れたボールは、真ん中高めの、打ちごろのコースへ入っていった。
叩きつけられた打球は、大きくワンバウンドし、サードの頭上を越える。
ファウルか。球場全体がそんな雰囲気だった。サードを守る中村紀洋もそのような仕草をしていたし、実際、ボールはラインの外側に落ちたと思っていた。
たが、三塁塁審のジャッジはフェア。これが二塁打となる。
もしこの打球が、誰もが認める完璧な二塁打であれば、指揮官も「すべてだった」とは言わなかっただろう。
ワンプレーで展開が変わることは、野球ではざらにある。だが、この1球が及ぼした影響はとりわけ顕著だった。
「やはり初回の3点が大きかった」と語ったブラウン監督。
1死から森野将彦のゴロをファーストのルイーズがエラー。和田一浩の二塁打で先制され、ブランコの四球後に野本圭に2点タイムリーを許しこの回3点。事実上、この回でゲームの趨勢は決まってしまった。
「やはり初回の3点が大きかった。今年のチェンは調子が悪いと言うが、カープ時代から見ている私からすれば彼はいい投手だ。事実、今日は球威が素晴らしかった。だからこそ、うちは0点で抑えなければならなかった」
左腕のチェン対策は先発オーダーを見ても明白だった。鉄平が首に違和感を覚え欠場したとはいえ、トップの聖澤諒以外は右打者を揃える徹底ぶりだったが、荒木への1球で崩れたリズムを立て直すまでには至らなかった。
結局、この1球が優勝を遠ざけてしまった、と結論付けてもいいのかもしれない。