野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
百人百様の野球人生の交差点――。
初心者のためのトライアウト生観戦術。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byKYODO
posted2012/11/06 10:30
阪神から戦力外通告を受けた後の下柳や元横浜の古木も参加した昨年のトライアウト。ほっともっとフィールド神戸のスタンドは観客で埋まった。
野球人である自分を再確認するために受験した選手も。
'08年のトライアウトにBCリーグ新潟から参加した元広島の青木智史はブログにこんな心境を綴っていた。
「NPBに戻れる絶対的な自信は今の段階でも持ってない。トライアウトを受けるレベルに達してないのも自覚している。でも確認したい事がある。今でも下手糞なままかもしれないけど、どこまで成長したのか、それとも変化なしなのか。現状の力で挑戦してみたいと思った。今までの全ての力を注いで」(一部抜粋)
'03年に阪神から戦力外通告を受けた田中聡は昨年突然トライアウトに参加している。
「引退の8年後にトライアウトなんて、冷やかしかと思われるかもしれませんが、僕には大事なチャレンジだった。今年、高校の先輩でとても仲よくしてくれていた伊良部さんが亡くなり、『野球人は野球をし続けることが大事だな』という思いを強くしました。プロ野球の現役が終わっても、野球人であることは終わりじゃない。そのことを確認するために参加したんです」
トライアウトとは表舞台の入り口か、引退への出口か?
ここに挙げた人たちだけではない。ある者は死に物狂いでプロ野球にしがみつくために、またある者は自分の野球を応援してくれた人のため、自分の野球に見切りをつけるため、はたまた野球人としての自分を再確認するためトライアウトに挑む。
トライアウトは、選手の数だけの“思い”を乗せて行われているのだ。
その場が、シーズンとは違う独特の空気に包まれるのは、彼らのそんな思いが集約されているからではないだろうか。
先のCSでMVPを獲得した巨人の石井義人のように、華々しいプロ野球の世界へ復帰できる選手もいる一方で、その場が引退試合になるかもしれない、トライアウトという舞台。もしも、惚れた選手が参加するのであれば、見届けずに終わらすことなどできるものか。
2012年のトライアウトは11月9日にKスタ宮城、同21日に鎌ケ谷で行われる。