プロ野球亭日乗BACK NUMBER
日本一となる真の強さを求めて――。
結実した原監督の“守りの野球”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2012/11/05 11:40
監督として自身3回目となる日本一となった原辰徳監督。長嶋茂雄、王貞治、藤田元司、鶴岡一人ら球史に残る監督の成績を越え、野村克也、広岡達朗、古葉竹識らと並ぶ歴代5位タイの記録となった。
危険な打球だった。
日本シリーズ第6戦。巨人が日本一まであと1アウトと迫った9回表2死一、二塁。日本ハム・糸井嘉男の放った打球は、少し詰まり気味に大きなバウンドで三遊間に転がった。
猛然と前進した巨人の遊撃手・坂本勇人がボールを捕ると一塁に矢のような送球をした。その瞬間に50メートル5秒76の俊足を飛ばして糸井がベースを駆け抜けた。
ホントに間一髪だった。
一塁塁審の右手が上がったのを合図に、巨人ナインが一斉にマウンドへ向かって駆け出した。
このシーンを見ていた評論家の達川光男さんは坂本の守備を絶賛する。
「山口のシュートのサインを見て、あらかじめ三遊間方向に守備位置を変えていた。もし、変えていなかったら、おそらく一塁はセーフになっていたはずです」
翌日のスポーツ報知の評論では「集中力の中での余裕」であり、これが「一流」と「超一流」の違いだと絶賛していた。
強力打線のイメージだが、原監督の思惑は「守備力強化」だった。
「今年は守備から入ったチームだった」
日本一へと登り詰めた監督の原辰徳は、こう述懐する。
巨人と言えば「他のチームの4番打者を奪いとって作った」強力打線というイメージが強い。昨オフも横浜(現DeNA)の4番だった村田修一をフリーエージェントで補強したために、「またか……」というイメージを抱いたファンも多かったかもしれない。
ただ、原が村田に求めたものは、打力ばかりではなかった(もちろん打力への期待が大きかったのは確かだが……)。
「三塁を固定したかったのと、三遊間、左方向の守備力を強化したかった」
原の説明だ。
以前にこのコラムで書いたが、原にとっては2年越しの恋人だった村田獲得には、三塁手を固定して守備面の強化を計るという狙いもあった。
加えてその村田と三遊間コンビを組む坂本に対しても、守備力強化を目的に、昨オフには荒療治も行った。守備の名手として知られるヤクルトの宮本慎也の下に“弟子入り”させたのである。