野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
百人百様の野球人生の交差点――。
初心者のためのトライアウト生観戦術。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byKYODO
posted2012/11/06 10:30
阪神から戦力外通告を受けた後の下柳や元横浜の古木も参加した昨年のトライアウト。ほっともっとフィールド神戸のスタンドは観客で埋まった。
別人の野球カードを差し出してサインをねだらぬように。
野手は守備もあるため規定の打席を終えても最後まで残っているが、投手は登板が終われば終了。出番を終えた選手たちは着替えを終えると、それぞれに個別解散となるのだが、そうなると球場の外は毎年ちょっとしたサイン会状態になってしまう。とはいえ、人生の岐路ともいえるプレーを終え、結果が出た人、出ない人、様々な思いを抱えた選手がいるわけで、中には絶望的な結果で、落ち込んでいるなかサインに応える人や、拒否する選手がいるのはしょうがない。
しかし、ファンの中にはプロ野球選手の合同サイン会と勘違いしている人もいるようで、誰かもわからず「とりあえずサイン貰っとけ」というノリで選手に寄ってくる人も結構いる。ちなみに筆者は過去に2回選手と間違ってサインを求められた。欲しいのか、ホントに。
サインを求めるなら、せめて選手名鑑で顔を覚えるなり、バッグやバットケースについている背番号で本人確認をした後に声を掛けることをオススメする。もちろん「お疲れ様でした」「ありがとうございます」ぐらいの最低限の礼儀はわきまえておきたい。「すいませんサインください!」と違う選手の野球カードを出されたりするとかなりヘコむらしい。
トライアウトの結果だけで入団が決まるなんて絵空事。
トライアウトがその選手のプロ野球人生を左右する大きなイベントであり、真剣勝負の場であることは間違いない。だが、選手たちに話を聞いてみると、各球団の編成やスカウトは1年間、その選手のプレーを見てきているわけで、トライアウトで結果を残せば入団が決まるなんてことは絵空事に近いということを、承知した上で参加していることがわかる。
そして、プロ野球の世界に残るためだけがトライアウトに参加する目的ではないことが見えてくる。選手たちは実に様々な思いを持ってグラウンドにやってきている。
'06年に横浜から戦力外通告を受け、'08年横須賀でのトライアウトに参加した田中一徳はこんな言葉を残してグラウンドを後にした。
「去年は受けなかったトライアウトを受けたのは、会場が自分のプロ生活がはじまった横須賀だったからです。この場所なら自分の気持ちに整理をつけられる。だから、結果は二の次です」