南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
岡田監督の方針転換に大きな疑問。
これではフランスW杯直前と同じだ!!
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2010/06/03 10:30
南アW杯への出発を目前に、鳩山由紀夫首相へサイン入りユニフォームを手渡す岡田武史日本代表監督
これで、本当にいいのだろうか。
岡田武史監督は、いよいよ現実路線へ突き進んでいる。
先のイングランド戦には、阿部勇樹をアンカーとする4-1-4-1で臨んだ。右サイドバックに今野泰幸を起用したこのシステムが、ディフェンスを強く意識したものであるのは明らかだった。岡田監督は「4-2-1-3のつもり」と話すが、岡崎慎司の1トップとみるのが妥当だった。
効果は速やかで、それなりに劇的ではあった。
イングランドが精彩を欠いていたとはいえ、韓国戦から約1週間でひとまず安定感のある試合運びを取り戻したのだ。非公開練習というシャッターの向こう側で、守備の戦術確認が繰り返されていたことがうかがえる。このままワールドカップを迎えれば、どの試合もクロスゲームに持ち込むことはできるかもしれない。
守備重視へ変えるなら、なぜもっと早く変えなかったのか?
それにしても、である。
自分たちで主導権を握るサッカーを、頑ななまでに求めてきたかつての岡田監督は、いったいどこへ行ってしまったのだろうか。
守備重視へシフトするなら、もっと早いタイミングでそれに相応しい戦術を練り上げることができたはずだ。2月の東アジア選手権が惨憺たる結果に終わり、4月のセルビア戦で2軍相手に完敗を喫し、先の韓国戦で進退伺をするほどに追い詰められたから、荒療治が必要だと考えたのか。それにしても、遅きに失した感は否めない。現状認識の甘さを露呈したようなものだ。
背伸びをしてはいけないのは分かっている。彼我の実力を見極めれば、イングランド戦の戦い方は身の丈にあったものだ。スタジアムで観戦したイビチャ・オシムさんの、ポジティブなコメントにも勇気づけられる。世界のなかの立場で考えれば、しっかりとした守備が第一歩になるのは当然だ。ただ、ここにきての方向転換は、ひどく消極的な着地点のような気がしてならないのである。
チームの伸びしろに期待して、ここまで我慢してきたが……。
「韓国にできて日本にできないことはない。世界を驚かせようじゃないか」という所信表明に、僕は岡田監督の意気込みと野心を感じた。頑張って、頑張って、それでも届きそうにない目標なのは、他ならぬ監督自身が誰よりも承知していたはずである。「世界を驚かす」という物差しを提示したことで、チーム作りの判断基準が厳しくなることも。様々なリスクや障害を考えてうえで掲げた野心だからこそ、僕は岡田監督に共鳴した。選手のセレクトや試合での配置などに不満があっても、このチームの伸びしろに期待しようというスタンスでここまできた。