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<ナンバーW杯傑作選/'09年7月掲載> 岡田武史 「ベスト4の理由」 ~現実主義者が掲げた夢の真相~
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/06/02 10:30
常識的にはあまりに高いハードルに思えるが、なぜ指揮官はこのような目標を設定したのか。そして成算はあるのか。
オーストラリアの地で、胸の内を単刀直入に聞いた。
岡田武史の声はかすかに震えていた。
1-1で引き分けたカタール戦の試合後、サポーターに対するあいさつでマイクに向かった指揮官は深々と頭を下げた。
「良い試合をしたかったが、選手をいかせなかった。本当に申し訳ない」
ウズベキスタンとの死闘を制し、指揮官が選手やスタッフと喜びを分かち合ったときにあふれ出た微笑みは、横浜の地で一度たりとも見ることはできなかった。
それから5日が経った。
冬のオーストラリア。日本代表が拠点を置くメルボルンの市街地にあるホテルの一室に、約束した時間の10分前、几帳面な性格を表すように指揮官が足早に入ってきた。短いあいさつを交わした際、岡田は少しだけ相好を崩してから椅子に腰を落とした。
静寂のなかにも張り詰めた空気。2日後に控えたオーストラリア戦に集中しているためか、はたまた、「W杯ベスト4」の野望と日々、向き合っているためか、心の奥底で熱をたぎらせているような静かな迫力が岡田にはあった。
「ベスト4」――。
これまで大言壮語とはかけ離れた慎重派の指揮官が掲げた、どでかい目標。全員攻撃、全員守備を軸とした現状コンセプトの質を高め、チーム全体の力を引き上げ、そのうえで周到な準備を施した先に、果たして高邁なる目標は現実味を帯びるのだろうか。次のステップに進んだ現在の心のうちを、余すところなく聞いた。
「僕の場合はある意味、開き直ってやっている」
――ウズベキスタンに勝利して4大会連続のW杯出場を決めました。12年ぶりに最終予選を戦った岡田監督のなかに、今回もプレッシャーというのは?
「選手のほうがウズベキスタン戦で燃え尽きてしまっていたというか。ああ、こいつらこんなにプレッシャーを感じて戦っていたんだ、というのはカタール戦のときに感じたことです。(自分でも)プレッシャーはもちろんありましたよ。でも、僕の場合はある意味、開き直ってやっている。当然プレッシャーはあるけど、そんなもんしょうがないや、って自分に言い聞かせてましたからね」
――帰国後の会見のときに、「日々生きるのがつらかった」という発言をしている。
「半分、冗談ですよ(笑)。まあ、この仕事なんてそんなもんですよ」
――日本人の特性をいかすサッカーを目指し、そのためのコンセプトを掲げて浸透させるべく、取り組みを続けている。攻守の切り替えの速さや、サポート、プレッシング、素早いパス回しなどが特徴として挙げられるが、現状でどれぐらいの手ごたえを?
「コンセプト自体は去年のキリンカップの前、5日間ぐらいのキャンプである程度理解してくれたという感じがあるんですよ。そこから一試合一試合少しずつ、上がってきた。今年に入って基本的なところが体に染み付いてきたというか……たとえば攻守の切り替えの速さなんかは、だいぶできるようになった。試合によっては、これぐらいでいいか、まあいいか、みたいなものがなかなか抜けきらなかったんだけど、そういうのをなくしていこうとやってきて今回のキリンカップのチリ戦、それとベルギー戦の2点目を獲るぐらいまでは、だいぶよくなってきたな、と。完全に抜けきったわけではないですけどね」