野ボール横丁BACK NUMBER
甲子園で泣く選手は大成しない!?
プロ入りした後の活躍を検証する。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/07/04 11:50
2009年夏の甲子園。6点リードした状態での9回表2アウト・ランナー無しから、高校野球史に残る怒涛の猛反撃をくらって降板した堂林翔太。極めて異例と言わざるを得ない、涙と反省の優勝インタビュー。
初めて聞く「価値基準」だった。
ずいぶん前の話になる。プロ注目の高校生投手が、夏の甲子園で早々に負けたときのことだ。試合後、ある放送局の記者に「今、感謝の気持ちをいちばん伝えたい人は誰ですか?」と聞かれ、その投手は涙をこらえ切れなくなってしまった。
よく見る光景ではある。うがった見方をすれば、テレビ取材でありがちな「泣かせるための質問」でもあった。
すると、近くにいた記者が「幻滅した」と吐き捨てるように言った。いわく、「甲子園で負けて泣くようなヤツは、プロでも大成しない」と。
一流のプロ野球選手の多くが甲子園で涙を見せていない!?
そのときは、そういうものかと思いつつも、そんな見方に抗う気持ちもあった。涙にもいろいろな種類があるし、あまりにも杓子定規に過ぎると思ったのだ。
ところが、そのとき号泣した選手は、大学、社会人を経て何とかプロ野球選手にはなったものの、時代を経るごとに輝きを失い、今では高校時代のスケール感はすっかり影を潜めてしまった。わかりやすくいうと、ぱっとしないのだ。
それからというもの、心のどこかで、そんな視点で選手を見るようになった。
負けたとき、この選手は、どんな表情を見せるのか――。
近年で、もっとも大量の涙を流した選手といえば、'09年夏、準決勝で敗れた花巻東の菊池雄星(西武)だろう。
慟哭。
そんな表現がぴったりなほど、菊池は激しい泣き方をした。
結論を下すのは時期尚早ではあることは承知の上だが、菊池も、前評判からすると、ここまでは結果を出せていない。
確かに、プロで一流と呼べる成績を残している選手の多くは、甲子園で涙を見せていない。