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“闘う”写真家が、山に向かったわけ。
~『山をはしる 1200日間山伏の旅』~
text by
井賀孝Takashi Iga
photograph bySports Graphic Number
posted2012/05/20 08:01
『山をはしる 1200日間山伏の旅』 井賀孝著 亜紀書房 2500円+税
Numberで写真を撮り始めたのはいつのことだっけ?
引っ越したばかりでまだ段ボールがうずたかく積まれた部屋の荷物をあさる。見つけた。恐らくこれが最初だ。Number531号「格闘大国の使命。」でのグラバカの撮影。
うん。うまく撮れている。
平成13年9月20日発行とある。11年前か。そう、俺は格闘技を撮っていた。
15年前、27歳の時、NY滞在中に出会ったブラジリアン柔術がきっかけだった。その後ブラジルを訪れ、『ブラジリアン バーリトゥード』という本を出版した。折しも世間は格闘技ブーム。雑誌やテレビで度々格闘技特集が組まれていた時代だ。そんな影響もあってか地球の裏側には都合10回出かけた。24時間のフライトというありがたくもない代物を伴って。
30代前半、丁度年齢的にも動きやすい、使いやすいということもあってか写真家として非常に忙しく、行き先はブラジルだけに止まらず、ヨーロッパ、アジアと各地に及んだ。そんな海外渡航を重ねるうち次第に感じ始めていた。「日本はなんて素晴らしい国なんやろ」と。
なぜ、山伏に“格闘家の匂い”を感じたのか?
俺は日本を撮りたかった。この美しき国「日本」を。
広大な関東平野の上に拓かれた東京で暮らしているとなかなか気づかないが、日本は実に国土の76%までもが山に覆われた、世界でも類を見ない山国である。国土が南北に細長く、概ね北緯20度から45度の中緯度に位置する我が国は見事なまでの四季と多彩な生命が息づく稀有な国土を有する。そんな環境下にあっては万物には神が宿るとする自然崇拝的思想が生まれるのも無理はない。
その昔この国には八百万の神々がいたという。その後大陸から仏教が伝わって、神と、仏と、自然、全てが一体となった日本固有の宗教「修験道」が生まれた。山に入り、窟に籠り、祈り、歩く。歩く禅とも呼ばれる宗教、修験道。自分の身をもって体験し、それによって精神を高めていくという「実修実験」という概念。机上の空論でない実践宗教。それが修験道。その修験道を実践する者、山伏。彼らはあまりに早く山を駆け抜けたため、天狗と見間違われた異形の人たち。ある種超人。そこに俺は格闘家の匂いを感じた。俺の中で追いかけ続けてきた格闘技と山が結びついた。山と肉体。