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今やシュツットガルトのキーマン!
酒井高徳が登る一流選手への階段。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2012/03/10 08:02
入団当初はまったくドイツ語ができなかったという酒井高徳。ドイツ・ニュルンベルク出身の母アンジェリカさんからは「だからドイツ語を勉強しておけば良かったのよ!」と怒られたという。
「死ぬほど練習した」左足のキックはチームの武器に。
そして、3つ目に挙げるべきが、酒井の攻撃力だ。彼の左足から繰り出されるパスやクロスは、チームの重要な武器になりつつある。
しかし、酒井の利き足は左足ではなく、右足だ。それゆえに苦労もある。左右両サイドのサイドバックとしてプレーすることの出来る酒井だが、シュツットガルトに来てからは、もっぱら左サイドバックとして起用されている。左サイドでプレーする際には、右サイドでプレーするよりも、左足を使う場面が圧倒的に多い。左利きではないからこそのハンデもあるはずなのだが、本人はこんな風に語る。
「みんなは『右と左の両サイドで(プレーすることが)出来る』って簡単に言いますけど、そもそも、右サイドバックでも左サイドバックでも両方出来なきゃいけないという感覚が自分の中にあったんです。やっぱり、左サイドで出た時には、自分の(左足を使ったキックに対する)自信の無さみたいなものがミスに繋がっていたし。それに、左(足のキック)は死ぬほど練習したんで。それが自分にとって、すごくプラスになっていると思う」
守備面の課題を克服できるかがさらなる飛躍のカギ。
酒井には観察眼もある。ブンデスリーガに来て初めて記録した、フライブルク戦のアシストからもそれがうかがえた。左サイドの低い位置にいた酒井が、右MFのハルニクへクロスを送ったシーンだ。このアシストを成功させた理由を、酒井はこう説明している。
「(逆サイドにいる)マルティン(ハルニク)の遠いところからの動き出しっていうのは、ベンチで試合を見ていた時から感じていたんです。それから、こっちのディフェンスは、遠くなればなるほどルーズになっていく特徴があるんです。僕達日本人というのは、そういうところまで集中していけるんですけどね」
もちろん、本職である守備の面では課題も少なくない。一対一の局面での激しさ、ポジショニング、クロスへの対応などは、これからより一層真摯に取り組んでいかなければならないだろう。どれほど攻撃力があろうとも、守備の出来ないサイドバックという烙印を押されてしまえば、その評価を覆すのは容易ではないだろう。
シュツットガルトのキーマンに寄せられる大きな期待。
しかし――。
酒井がスタメンを確保する前には、11位にまで順位を落としていたシュツットガルトは、酒井のスタメン定着以降は3勝1敗の成績で、8位にまで順位をあげた。来季のヨーロッパリーグ出場権を得られる6位ブレーメンとの勝ち点差も4にまで縮まっている。チームの上昇気流を導くキーマンとして、酒井には大きな期待がかかっている。
かくも短い間に多くのものを得られるだけの、幸運と環境に恵まれる選手は少ない。この好機を活かして、羽ばたいていけるのかどうか。
これからの未来を決めるのは……酒井の持つ資質と、サッカーに取り組む姿勢にかかっている。