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今やシュツットガルトのキーマン!
酒井高徳が登る一流選手への階段。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2012/03/10 08:02
入団当初はまったくドイツ語ができなかったという酒井高徳。ドイツ・ニュルンベルク出身の母アンジェリカさんからは「だからドイツ語を勉強しておけば良かったのよ!」と怒られたという。
「日本人マニア」ボビッチSDは酒井の人間性を高評価。
これほどまでの活躍を見せているのには、いくつかの理由がある。
まず挙げるべきは、チーム編成の決定権を握っているボビッチSD(スポーツディレクター)の存在だ。
「日本人マニア」というニックネームがつけられるほど、日本選手の能力を高く買っているSDは、酒井入団に際してこんなことを語っていた。
「日本人選手のメンタリティは素晴らしい。規律を守り、環境にも上手く適応するし、ハングリーだ。自らの成長のためには努力を怠らず、チームの勝利のために全力を尽くす」
酒井加入以前に、左SBの2番手だったボカとの契約は今季限りで切れることになっているのだが、ボビッチSDはすでにこの契約を延長しないことを決めた。つまり、現在はレギュラーとなっている酒井には、これからも左SBとして2番手以上の立場が保証されているのだ。ボビッチSDがいかに酒井を高く評価しているのかがわかる。
岡崎慎司と通訳の河岸貴氏という先輩に恵まれた幸運。
次に挙げるべきは、岡崎の存在だろう。
ボビッチSDが日本人を高く評価するのは、クラブ初の日本人プレーヤーである岡崎が、この1年あまりでピッチ上で見せてきたプレーと、ピッチの外で見せてきた高いプロ意識があったからこそだ。
そんな岡崎が成功を収めつつある理由を問われるときに、しばしば口にするのが通訳の河岸貴氏の存在なのだ。
河岸氏は、指導者の勉強をするためにシュツットガルトの門を叩き、初めは無給ながら下部組織の指導に携わり、ついには正式にクラブへ雇われることになった苦労人だ。
昨年1月末に岡崎が加入すると、クラブと岡崎の懸け橋としてトップチームの通訳に抜擢された。すんなりとチームに溶け込めた理由を聞かれたとき、岡崎がいつも挙げるのは、すでにクラブの一員だった河岸氏の存在だ。
今年の2月1日、シュツットガルトの練習が終わったあとのこと。酒井はドリブルで一対一の勝負をしていたかと思えば、キャプテンのタスキ、エースのハルニク、日本食をこよなく愛するニーダーマイアー、そして岡崎などとともにシュートゲームに興じた。この時点では、まだ公式戦での出場機会を得られていなかったのだが、酒井はまるで古株の選手のように、チームに溶け込んでいた。
河岸氏と岡崎というシュツットガルトにいる2人の日本人の先輩の恩恵を受け、日本人3兄弟の末っ子として、酒井はチームメイトから可愛がられているのだ。