セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
ユーベの迷走が止まらない。
欧州の名門に何が起きているのか?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byUniphoto Press
posted2010/03/05 00:00
ユーベの迷走が止まらない。欧州の名門に何が起きているのか?
現場総責任者の不在が4年で4回の監督交代劇を招いた。
今季開幕から延べにして50人近くに達している負傷者や、期待されたブラジリアン・トリオの不発が、この低迷の無視できない要因であることは確かだ。それにしても4年間で4回もの指揮官交代は、名門にあるまじき異常事態。この惨状をもたらした要因は、やはり開幕時に同じ新人監督を起用したミランと比較するとわかりやすい。2位(26節終了時点)で逆転スクデットを狙うミランとユベントスとの違いは、監督を心理的・技術的側面から支え、強力なリーダーシップで仕切る現場の総責任者の有無だ。
移籍市場でも厳然たる存在感を示すミランのガリアーニ副会長のような存在は、近年のユベントスにはつねに欠けていた。名門と呼ばれるチームほど、成績不振やサポーターからの批判に晒されたときに、ロッカールームと上層部を直結させる人材は不可欠になる。ようやくそれに気づいたユベントスは、栄光の70年代の象徴だったロベルト・ベッテガを副ゼネラル・ディレクター職に就けた。彼はカルチョ・スキャンダル発覚前の副会長であり、弛緩しきった現場を引き締めるお目付け役としては十分だ。
ユベントスの指揮官に降りかかる多大なる重圧。
クラブはすでに来季構想に入っている。一時代を築いたカンナバーロ、カモラネージ、トレゼゲといったベテラン勢を一掃し、MFマルキージョなど新世代イタリア代表組を、一度はフラれたベニテスに託したい考えだ。生え抜きの主将デル・ピエーロは「35歳にはなったけどそうは感じない。いけるところまでいきたいと思っている」と、自身のプロキャリア通算300ゴール達成を目前にやる気を取り戻しつつある。右もも内転筋負傷で長期離脱中の守護神ブッフォンも「(ベスト16に残っている)ヨーロッパリーグは勝つ」とチームの3月反攻に期待する。
ユベントスというクラブを指揮するということは、一筋縄ではいかない。国内随一の人気クラブであるとともに、多大な社会的影響力を持つフィアット(=アニェッリ家)の介入も無視できず、内外のプレッシャーの苛烈さは他クラブの追従を許さない。
思い起こせば4年前のこの時期、ドイツW杯を控えたユベントスは、イビラヒモビッチ(現バルセロナ)やビエラ(現マンチェスターC)を抱えセリエAを圧倒、カペッロ(現イングランド代表)の指揮の下、2連覇へ向けて驀進していた。だが、今のユーベには4年後のことを考える余裕はない。シーズンの残り1試合1試合が、来季の運命を左右する。ユベントスの春の訪れは、まだ遠い。