野球善哉BACK NUMBER
強豪校の前に散った加古川北と桜井。
公立校が見せた高校野球の“美しさ”。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/08/01 12:55
兵庫県大会決勝、東洋大姫路と再試合の末0-6で敗れるも、胸を張って行進する加古川北ナインたち
今年も、叶うことはなかった。
全国に名を馳せる強豪私学の前に、関西のふたつの公立校が敗れた。
8月1日に出場校が決定する大阪を除き、地方大会がすべて終了した。例年のごとく、私学の強豪校がその大勢を占めたが、あと一歩のところまで迫った普通公立校の姿があったことを忘れたくはない。
野球に特化せず、勉強と日常生活を重んじ、甲子園の夢を追う。本来あるべき部活動の姿を貫いた彼らの高校野球は、美しかった。
「再試合となるときついですよね。東洋大姫路さんは選手を入れ替えてきた。一度、どんなチームか見られてしまって対策を練られると、言い訳にはしたくないですが、現実、選手層の差が出てしまいます」
憔悴感いっぱいの表情でそう語るのは、兵庫県大会で準優勝に終わった加古川北・福村順一監督である。決勝戦では、幾多の歴史を誇る東洋大姫路を相手に最後まで食い下がったが、延長15回引き分け再試合の末に0-6で敗退した。
練習グラウンドも他クラブと共用の加古川北。
加古川北にとって、今年は一つのチャレンジだった。
というのも、兵庫県では16年間公立校の春夏連続出場がなかったが、センバツで8強に進出していた今年の加古川北にはそのチャンスが巡ってきていたからだ。準決勝で実力No.1と言われた神戸国際大付を接戦の末に5-4で撃破。
「公立校の代表として、勝ち負けを超えた純粋な高校球児の意地を見せたい」
福村監督は決勝を前にそう意気込んでいた。
普通公立校である加古川北は'84年に創部。'08年の夏と今年の春に1回ずつの甲子園出場がある程度で、プロ野球選手も阪神へ育成枠で入った藤井宏政以外はいない。私学のように、選手を勧誘して入学させるシステムはなく、練習グラウンドも他クラブと共用だ。毎年のように、甲子園を目指す環境が整っているわけではないのだ。だから、そんなチームの指導方針を、福村監督はこう捉えている。
「甲子園は目指すべきものですが、ウチは公立として、文武両道を掲げています。勉強をしっかりして、野球を通して社会に出て恥ずかしくない人間性を身につけるということを念頭に置いてやっている。野球を通じて、いろんなことを学ぶのが高校野球。自分がレギュラーになれなかったら終わりではなくて、自分は何ができるだろうか? 野球だけじゃなくて、いろんな面もできることをやりなさい、と。野球だけをするんじゃなくて、見ている人がいいなぁって思う姿勢でなければならない」