Column from SpainBACK NUMBER
プロフェッショナルの真髄。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images/AFLO
posted2008/09/26 00:00
先日、首都圏で行われたJリーグの試合を観てきた。
これが退屈だった。
一緒に行った友人は「毎節、面白い試合もある」と言うので、たまたまハズレを引いてしまったのかもしれない。が、とにかくつまらなかった。
何とかならないのかと思ったのは、ディフェンダーのパスだ。長いボールが正確じゃないとか、狙い所がおかしいとか、そんな難しいことではない。カットされる心配のない状況で、ディフェンダー同士が横に繋ぐパスが遅いのだ。
おい待てよ、インターセプトされる可能性がないなら、遅くたっていいじゃないか、と思われるかもしれない。
ボールをキープし続けることだけを考えるなら、その通りだろう。速いパスはトラップミスを招く。蹴る側が的を外すこともある。みすみすリスクを冒すことはない。
しかし、プロとして、試合を面白くすることを考えた場合はどうか。
ディフェンダー間のパスが速くなれば、中盤で廻すパスも、フォワードへ向けたラストパスも自ずと速くなる。そうして全てのパススピードが上がれば、チームのサッカー自体も速くなる。
ピッチ上には緊張感が生じ、試合は観て楽しいものになるだろう。そればかりか、スピードは強さに直結するから、勝ち星も増えていくはずだ。一方で、選手は技術と素早い思考・判断を求められるので、(努力する者は)レベルアップする。
良いことずくめ。観客を喜ばせることは、結局自らの利益になるのだ。
その点、スペインの選手や監督は、観る側をしっかり意識している。
少し古い話になるが、ユーロの最中もシャビは試合の“見た目”を気にしていた。スペイン対スウェーデン戦後、乾いた芝に不満を唱え、こう語っている。
「芝が乾いているとボールが転がらない。守備重視のチームには良いけれど、攻撃的なチームには不都合だし、試合がつまらなくなる。少し濡れた状態で試合をするよう、UEFAはルールを定めるべきだ」
リーガ第3節終了後には、アルメリアのアルコナーダ監督がこんなコメントを残した。
「やりたくなかったサッカーに引きずり込まれてしまった。これまでのような試合ができなかったことをファンにお詫びしたい」
これだけ聞くと、アルメリアは負けたと思うだろう。ところが、この日はマラガに1-0で勝利。その上、首位バレンシアと同ポイントの2位に躍り出ている。それなのに恐縮しているのは、ただ敵地でアスレティックを子供扱いした第1節(1-3)や、地元でバレンシアと五分に渡り合った第2節(2-2)のような試合ができなかったからだ。
よく「スペインサッカーはスペクタクル」と言われるが、あれは誤訳ではないにせよ、適訳でもないと私は思っている。スペイン語のespect?culo エスペクタクロには確かに「スペクタクル」の意味もあるけれど、大抵の場合は映画や芝居といった「見せ物、ショー」。それを踏まえて、スペインの人々が毎週末の試合をどう捉えているかを考えると、一番しっくりくるのは、「スペインサッカーはエンターテイメント」だ。
そして、この定義が観る側だけでなく、やる側にもしっかり根付いているから、リーガには面白い試合やサプライズが期待できる。第1節では昇格組ヌマンシアがバルサを破った。第2節ではそのヌマンシアが今度はレアル・マドリーをギリギリまで追いつめたり、10人のバジャドリーが只今絶好調のアトレティコを下したりした。2部降格候補筆頭のスポルティングがセビリアと正面切って撃ち合った試合もあった(4-3でセビリア勝利)。
「1部20チームの差は年を追うごとに小さくなっている」とスペインでは言われているが、当然だろう。結果だけを追求しながら面白い試合をするのは難しい。しかし反対に、面白い試合を心がけていれば、結果は付いてくるのだから。