セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
バラックに奇跡を託すインテル。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2006/01/25 00:00
バイエルン・ミュンヘンがMFミヒャエル・バラック(29)の移籍を容認した時点で、欧州クラブによるカイザー・ミッドフィルダー争奪戦が幕を開けたのはいうまでもない。なかでも、スター選手志向のレアル・マドリーと、戦力補強に躍起になっているインテルが、バラックの移籍先として最有力候補に浮上した。
レアルの場合、「いい選手をとる」というペレツ会長の宣言に基づき、コレクションにバラックを加えたいという考えは納得できる。それに高額年俸のスター選手を抱えるだけの経済力があるレアルだけに、バラックを獲得してライバルの戦力を落とそうという企みも理に適っている。
では、インテルはどうだろう?今季限りで退団が濃厚なアルゼンチン代表のMFヴェロンの後任としてバラックに白羽の矢を立てたというのがインテル側の表向きな理由であるが、実は、「奇跡を生んだドイツ人パワー」、つまりドイツ人選手にタイトル奪取を委ねたいインテル幹部の心情が根底にあるように思えてならない。
ではこの「奇跡」について語ることにする。
1988−89年にインテルはスクデット(リーグ優勝)に輝いた。ライバルであった2位のナポリに11ポイントと大差をつけて9年ぶりにリーグ制覇した背景には、22ゴールを挙げリーグ得点王のFWセレーナの功績に加え、チームの原動力となった2人のドイツ人選手の活躍があった。1988年夏、バイエルン・ミュンヘンから移籍したマテウスとブレムである。それぞれレギュラーの座を獲得し、貴重な戦力として常にチームを牽引した。2人のジャーマンに刺激された僚友たちは「ドイツ人に負けられない」と本領を発揮。チームの活性化は遠ざかっていたリーグ優勝さえもたらしたのである。カイザーパワーがきっかけでインテルは最強軍団を構築。絶対的な強さは34試合中、67ゴール19失点という脅威を生み、文字通り完全復活を成し遂げたのだ。
念願のスクデットから2年後、ドイツ人による「奇跡」は再来した。インテルに移籍2シーズン目のFWクリンスマン(現ドイツ代表監督)が、先輩格のマテウスを上回る決定力でインテルをUEFA杯の覇者に導いた。当時のイタリア紙は「インテルを鼓舞するドイツ代表選手」のタイトルを掲げ、カイザーたちの功績を称えたものだった。
「ドイツ人の快挙がタイトルにつながる」
近年、ブラジルの怪童ロナウドをはじめとする代表選手を数多く擁しても、結局はタイトル奪取に至らなかった苦い経緯があるだけに、モラッティ会長はバラック獲得を目指し、覇権奪回をカイザーパワーに託す方針を固めたのである。
本国ではナンバーワンプレーヤーに輝き、バイエルン・ミュンヘンでは圧倒的な強さでタイトルを総なめにしたバラックだけに、王座を狙うインテルでの「救世主」という大役にも十分期待ができそうだ。
さて、インテルにとって問題はレアル・マドリーの存在である。バラックという宝を巡り、両者がどこまで食い下がるか、バラックの移籍騒動は目が離せない。