MLB Column from WestBACK NUMBER
二刀流への大いなる挑戦 マイカ・オーウィングス
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images/AFLO
posted2008/05/10 00:00
前回のコラムで取り上げたレイズが順調に勝ち続けている。まだシーズンは始まったばかりなので糠喜びはできないが、キャンプ中に岩村選手が言っていた「(自分たちは強いと)勘違いしているうちに、実力がついてくる」というのが、まさに現実となっているような気がする。なかなか直接取材に回ることができないが、これからも見守って(密かに応援?)していきたい。
ところで、最近は松井稼選手と井口選手の間を往復する毎日を過ごしているのだが、そんな彼らの取材中に面白い選手を発見した。メジャーで見事な“二刀流”を実行している、ダイヤモンドバックスのマイカ・オーウィングス投手だ。
実際にダイヤモンドバックスの試合を観るまで、オーウィングス投手についてはブランドン・ウェブ投手、ダン・ハレン投手と今季の先発3本柱を組む主力投手ぐらいの認識しかなかった。
ところが4月25日のパドレス対ダイヤモンドバックス戦を取材していた時のことだった。5対1でリードした8回表の攻撃で、中継ぎ投手に打順が回ってきた時に、オーウィングス投手を代打に出したのだ。
(えっ!何でなんだろう…)
それまで控えの野手は1人も使っていない状態だっただけに、面白い起用法をするなと不思議に思ったが、その時はオーウィングス投手もセンターフライに倒れ、それ以上の詮索まで及ぶことはなかった。ところが…。
4月30日の対アストロズ戦のことだった。5対7と負けている6回二死二塁の場面で、やはり投手に代わりオーウィングス投手が代打で登場してきた。そして何と初球の球を流し打ちで右翼席に運んでしまったのだ。今季1号は、自身初の代打本塁打だった。そのまま勢いづいたダイヤモンドバックスは逆転に成功し、勝利を飾ってしまった。
この一振りで、すっかりオーウィングス投手に興味を引かれてしまい、彼のデータを調べたら、実は何とも凄い“打者”だったことが判明した。
昨年開幕からローテーションの一角を担い、メジャー・デビューを果たしたメジャー2年目の選手だが、昨年の打撃成績は、打率3割3分3厘、4本塁打、15打点、長打率6割8分3厘を残し、見事にシルバー・スラッガー賞を受賞している。今シーズンもここまで代打本塁打を含め、打率4割2分9厘、1本塁打、3打点(5月5日現在)を記録している。
30日の試合後は松井稼選手およびアストロズの取材に回らねばならず、オーウィングス投手から直接話を聞くことはできなかった。とりあえずMLB.comをチェックしたのだが、ここでも気の利いたコメントは載っていなかった。代わりに、メルビン監督のオーウィングス投手評がなかなかに面白かった。
「控え選手の中に、右投手だろうが左投手だろうがまったく気にしないもう1人の控え選手がいる。彼のスイングを見ていれば、(代打で起用することは)難しい決断ではなかった。彼にはもっと定期的に打撃練習をさせるつもりだ。これまでの短期間の成長を考えれば、もっと打つ機会を与えることで、もっと気分よく打てるようになるだろう。彼は今や我々の攻撃の武器としても機能している」
確かにメルビン監督の言葉通り、ここまで代打登場数もサラザー選手、ロメロ選手に続いてチーム3位タイ。今後代打としても出場機会が増えそうだ。
さらに知人のUSAトゥデー紙記者が、やはりオーウィングス投手に関する面白い記事をまとめていたので紹介したい。代打本塁打を打った日に、ダイヤモンドバックスが本拠地とするアリゾナ州フェニックスに在住するベーブ・ルース氏の令嬢、ジュリア・ルース・スティーブンスさんに、オーウィングス投手の印象を語ってもらっているのだ。
「彼は、かつて父がそうであったように打っているわ。彼がしていることは素晴らしいことね。往年のレッド・ラフィング氏のようね。彼もよく代打で登場していたわね」
スティーブンスさんから見れば、オーウィングス投手の打撃センスはベーブ・ルース氏に匹敵するというわけだ。ここで登場するラフィング氏というのは、主にレッドソックスとヤンキースで活躍した投手で、メジャー22年間で通算273勝を挙げた他、打撃でも36本塁打、273打点を記録している“元祖”二刀流をこなした殿堂入り選手のことだ。
ラフィング氏が1937打席で36本塁打を記録したのに対し、オーウィングス投手はわずか79打席で5本を放っている。ちなみにネット検索(baseball-almanic.com)したところ、投手の最多通算本塁打はウェス・フェレル氏の37本塁打という。
果たしてオーウィングス投手はどこまで近づけるのだろうか。楽しみにしたい記録がまた1つ増えてしまった。