Column from EnglandBACK NUMBER
赤い悪魔、復活の序章。
text by
原田公樹Koki Harada
photograph byAFLO
posted2004/10/04 00:00
自信というものは、とてつもない魔力を生み出す。18歳のFWウェイン・ルーニーのことである。こんな簡単にゴールは決まるのかと思うほど、簡単にマンチェスター・ユナイテッドのデビュー戦でハットトリックを決めた。3点とも、ペナルティエリアの外から上手くボールをコントロールして蹴り入れたものだ。
マンUのエースであるファンニステルローイでさえ、欧州チャンピオンズリーグでハットトリックの経験はない。さらにいえば、この2年間に数々の最年少記録を破ってきたルーニーだが、昨季エバートンではわずか9得点しか決めていないのだ。おかしな言い方だが、エバートン時代のルーニーはすごい選手だが、スーパーにすごい選手ではなかった。
ところが28日、トルコの強豪フェネルバチェ戦に先発出場すると、開始わずか17分でファンニステルローイからの縦パスをゴールして1点目。そのわずか11分後にギグスからのパスで2点目を決めると、後半9分には、ゴール正面18メートルの位置からFKをそのままゴール左隅へ蹴り入れ3点目を決めた。
ルーニーに点を取らせよう、というファーガソン監督の厳命があったのは間違いない。2人の大先輩から供給された絶好のボールを確実に決めたのが最初の2点。3点目のFKは、その大先輩たちが蹴りたそうにボールへ寄って来たが、ルーニーは誰にも譲る気配を見せず短い助走からゴールを決めた。
よほどの強心臓である。普通ならば、俺はもう2点も決めているし先輩はパスをくれたのだから、ここはどうぞと譲ってしまう場面だ。ルーニーはきっと繰り返し何度も練習していたのだろう。彼が譲らなかったのは、俺は決められるという自信があったからに違いない。このルーニーのハットトリックで勢いづいたマンUは、6−2で勝利。ファーガソン監督は「私はこれまで何年もユナイテッドを指揮してきたが、今日戦ったチームが最強。あと数年でさらに強くなる」とまでいった。
ただしルーニーのデビューだけが、マンUを強くしたわけではない。その8日前から気配は十分にあった。20日のプレミアシップ、リバプール戦が始まった直後、僕は不思議な既視感を覚えた。マンUの背番号「7」が右サイドを軽妙なリズムで駆け上がり、クロスをゴール前へ放り込む。長身のセンターバックが最終ラインで次々と攻撃を摘み取っていく…。これって、見たことがある…。
三冠に輝いた99年のマンUにそっくりだったのだ。右サイドの背番号「7」はデイビット・ベッカムからクリスチャン・ロナウドへ変わり、長身のセンターバックはヤップ・スタムからリオ・ファーディナンドへ変わっていたし、GKもFW陣も違う。だが、選手全員が自信を漲らせ、プレーで敵を圧倒し、観客をひとときも飽きさせないサッカーは、6年前の強いマンUそっくりだった。
この一戦は、リオ・ファーディナンドの復帰戦でもあった。昨年9月、ドーピング(禁止薬物使用)検査を受けなかったため、今年1月にイングランド協会(FA)から8カ月間の出場停止と罰金5万ポンドの処分を科さえていたからだ。
昨季は3位、今季も出足は悪く、リバプール戦の前までプレミアシップでは1勝しかしていなかったマンUが生まれ変わった。ファーディナンドの復帰で最終ラインにあった大きな穴がふさがれ、全員が後ろを気にすることなくゴールだけを目指したのだ。まさにチーム全体に自信が蘇った結果である。リバプールを2−1で下すと、その5日後のアウエーでのトットナム戦も1−0で勝利。そしてチャンピオンズリーグでのルーニーのハットトリックへとつながった。まさにMan−United、男の団結である。赤い悪魔の復活への序曲が聞こえてきた。