EURO2008 最前線BACK NUMBER
共催国を応援できるのか?
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byMutsu Kawamori
posted2008/06/16 00:00
欧州にユーロヴィジョンという国対抗歌合戦がある。出場権を得た国の代表が一曲歌い、その後、国単位で自国以外の歌手に順位を付け、優勝者(国)を決めるコンテストだ。
この順位付けの傾向が面白い。スペインならフランスやポルトガル、スウェーデンならノルウェーやフィンランドにといった風に、どの国もたいてい隣国に好意的なのだ。政治的背景が云々という見方もあるが、単に、お隣さんには親近感を抱いているという話だと思う。
そこで考えたのが、ユーロではどうなのかということ。スイスが試合をするとき、オーストリアの人たちは声援を送るのだろうか。
確かめるべく、スイス対トルコ戦の夜、巨大スクリーンが幾つも設置されたウィーン市内のファンゾーンへ行ってみた。
平日の夜とあって、超満員とはいかないが、良い感じに人が集まっている。立ち並ぶのはビールやクレープ、ソーセージの屋台。平和なムードが漂い、手持ちぶさたの警官や救急隊員は、タバコを吹かしながら画面に見入っている。
やがてスイスが先制ゴールを決めた。
果たして、会場全体から大歓声が沸き起こった。ああ、仲良きことは美しきかな。
ところがである。その後のトルコのゴールには、さらに大きな歓声が上がったのだ。
よくよく周りを見渡すと、トルコ人らしき集団があちらこちらにいた。話を聞いてみると、熊崎氏のコラムにも出てきた移民だという。なるほど屋台の列にはトルコ名物ケバブの店もあると気づいたのは帰り道のことだ。
どうもすっきりしないので、もう一度スイス対ポルトガル戦を、今度は街中のパブで観てみることにした。同時刻に行われているチェコ対トルコとの二元中継で、客が関心を向けていたのは、どちらかというとグループ2位を賭けた戦いの方だろう。
しかし、それでも、スイスのチャンスが画面に映るたび、店内の空気は張り詰める。そして、得点のシーンでは、明らかな喜びの声が、どの口からも漏れた。スイスの大会初勝利を告げる笛が吹かれると、誰もが満足げな様子をみせた。隣国の名誉が守られたことに安心したように。
結論。サッカーでも隣人愛は存在する。
たった2試合で決めつけるのはどうかと思うが、何だか良いものを見せてもらった気がするし、ビールは美味しい。
だから、これで良しとしよう。