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WBC Final vs. KOREA 忘れ難き好試合に野球の醍醐味を見た。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/04/07 09:00
野球の面白さを網羅した博覧会のような試合。この日のドジャースタジアムにつめかけた5万4846人は、選手たちに感謝をささげなければならないだろう。
岩隈久志の投球の精緻さ。1回から3回までをわずか30球で片付けて見せたコントロールは作品と呼ぶのがふさわしいものだった。
その岩隈の低めの変化球をただすくい上げるだけでなく、バックスクリーン横まで運んだチュ・シンスのスイングは日本の打者には見られない力強さにあふれていた。
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内川聖一の守備も記憶に留めておきたい。チュの本塁打のあと、コ・ヨンミンのレフトライン寄りの安打をスライディングしてワンバウンドで捕球しただけでなく、二塁に送球して打者走者を刺してしまった。もしスライディングして捕球できず、うしろに逸らしたら、三塁打は確実で、本塁打のあとだけに日本の危機は大きく広がっただろう。
内川は3安打を放ち、決勝のホームを踏んでいる。打撃での活躍も見逃せない。
走者を背負って登板したリリーフ投手ふたり、杉内俊哉とチョン・ヒョンウクの冷静な投球も忘れがたい。
最後に勝負を分けたのは何だったのか?
数えていけばきりがない。好プレーはもちろんだが、この日は、エラーや作戦の失敗さえ試合を盛り上げる要素として十分に役割を果たしていたといえる。
最後に勝負を分けたのは、9回裏と10回表の双方の攻撃だが、勝負への執念、迫力を感じたのは韓国の攻撃のほうだった。同点にする前に、塁上にいる3番、4番にともに代走を送るというのは延長戦を考えれば、なかなか選択しづらい策である。しかし、キム・インシク監督は打線の中心を引っ込めてまで、この回でのサヨナラ決着をもくろんだ。
それは延長になれば投手の持ち駒からいって自分たちが不利だということを察知していたからだ。コントロールが怪しいダルビッシュ有をこの回に取り逃がしたら、獲物はもう弾の届く場所に戻ってくることはない。
一方の日本はイチローのタイムリーで決着をつけた。ずっと調子の上がらなかったイチローが最後の意地を見せたというところだろうが、苦境に立たされても、最後は「個の力」で切り抜けてきた今回の日本を象徴する結末だったようにも見える。
文句なしの「世界一」を誇るべき
「これが野球か」
「こんな野球でいいのか」
そう問いかけたくなる試合もあったこの大会だが、最後の試合は、「これこそ野球だ」というものを、申し分なく取り揃えて見せてくれた。その試合を勝ち切った日本代表は「われら世界一」と胸を張ってよい。注釈はつけようと思えばいくらでもつけられる。しかし、この日の試合を見せられれば、そうした注釈などどこかへ吹き飛んでしまうだろう。
注釈無しの世界一の座に、日本代表は37日かけてたどり着いたのだ。