革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER
野茂英雄が「ものすごい形相で」…同学年・小池秀郎の2軍落ちに「俺も落とせ!」「いや、できない」首脳陣と完全決裂“朝帰り事件”の真相
text by

喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byTakahiro Kohara
posted2025/05/16 11:01
1994年、野茂英雄と鈴木啓示監督ら首脳陣とのあいだの「軋み」が表面化したのは意外な事件からだった
俺も2軍に行く!
「だったら、俺も落として下さい」
小池だけがペナルティを受けるのはおかしい。俺が誘ったんだから、俺も2軍へ行く。
そうと決めたら、もう揺るがない。そこからは、メジャー挑戦を決めた際の経緯にも見られた野茂の頑固一徹ぶりと、筋の通らないことには黙ってはいられない心意気が見て取れる。
ADVERTISEMENT
その直談判に慌てたのは、鈴木をはじめとした首脳陣の方だった。
エースを2軍落ちさせれば「なぜだ?」と騒がれる。どこか故障か、それとも、監督と何かしら揉めたのか。あらぬ噂が飛び交い、痛くもない腹を探られることになるのは避けられない。しかも出場選手登録を一度抹消すれば、再登録までには最低10日は必要になる。つまり、野茂の先発ローテーションが一回、飛ぶことになる。
開幕ダッシュに失敗した苦境下で、さらにエースにいなくなられては、途端に投手の台所事情が苦しくなり、反撃どころの状況ではなくなってしまう。
「お前は、大事な選手だからいいんだ」
なだめるつもりだったのか、首脳陣からそんな筋の通らない、妙な説得を受けたのだという。それがまた、野茂の怒りを倍増させた。
あれが決定打だった気がする
「俺も落とせ」「いや、できない」
埒が明かない押し問答に、野茂の怒りは収まらなかった。
「アイツ、なんか、ものすごい形相でロッカーに戻って来たんだよ」
阿波野は、野茂からただならぬ気配を感じたのだという。
「それは、野茂の性格からしたら、許されないことだろうな……と。俺は、あれがなんか、もう“決定打”になったような気がするな。つながり、という部分でさ、信頼とか、尊敬とか、そういう部分でのつながりとか、だよな」
2軍降格の最終決定は、当然ながら監督の権限だ。
そのことに納得がいかないと、公然と野茂が異議を申し立てたのだ。エースの抱いた不信感は、事実上、監督との“完全決裂”を意味するといってもいい。
事態は、こじれた。
〈つづく〉

