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「もう、無理だ…」井上尚弥のエグいボディで“ドヘニーの心が折れた”決定的瞬間…カメラマンの予感「7、8ラウンドで終わる」“あの結末”の真相―2024下半期読まれた記事
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/12/24 17:00
4団体統一王者・井上尚弥はいかにしてTJ・ドヘニーの「心を折った」のか。リングサイドで撮影したカメラマンの福田直樹氏に話を聞いた
公開練習もシャドーだけでかなりの迫力がありました。特に左アッパーがものすごくよかった。本番ではなかなか出せませんでしたが、撮影していて「怖いパンチだな」と感じましたね。体格的なアドバンテージもありますし、個人的には「ドヘニーは前に出ていくんじゃないか」と予想していました。打ち合い覚悟で前に出ながら、ジャフェスリー・ラミド戦(2023年10月)のように左の一発を狙うイメージですね。中嶋一輝戦(2023年6月)でも唸り声をあげてパンチを打っていましたが、ドヘニー選手は前半の出力がすごい。井上選手がそれをどうさばいていくのか、というイメージで撮影に臨みました。
「熟練のピアノ奏者のよう」井上尚弥の“足技”
ただ、実際の試合でドヘニー選手はなかなか手を出せなかった。軽いパンチのやりとりの時点で「やばいな」と感じたのか、あるいは最初からカウンター狙いだったのか……。打ち合ってもスピードで勝てないので、「様子を見ながら」と判断したのかもしれません。マーロン・タパレスが引き気味に戦って善戦したのを参考にした可能性もあります。いずれにせよ“後ろ重心”だったので、いつもほど体重を乗せた左を打てなかった印象です。井上選手が終始プレッシャーをかけていたのも大きいでしょうね。
一方の井上選手も、計量から11kg戻した相手の体格も含めて、いつも以上に「慎重にいこう」という感じはありました。ゾーンに入って超人的な爆発力で勝負するというよりも、いろんなことを試しながら、理性的にドヘニー選手の選択肢を切り落として、自分ができることを増やしていった。真吾トレーナーもしきりに言っていた「丁寧に」というのはそういうことだと思います。
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特に目についたのは井上選手の足の動きです。フルトン戦のように相手が足を踏んでくるようなシーンも含めて、じつはいろんな駆け引きがあった。あえて足を浮かせてみたり、相手の立ち位置を踏み越えたり……。まるで熟練の演奏者がピアノやオルガンのペダルを踏むみたいに、上半身と連動して自由自在の動きを見せていました。いわゆる“フットワーク”とは別ジャンルの、非常に面白い攻防でした。