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東京2020直前に階級変更→オール一本勝ちで世界選手権3連覇、31歳でオリンピック初出場の角田夏実が“異色の柔道家”と呼ばれる理由
posted2024/07/17 10:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Wataru Sato
4年に一度の大舞台がまもなく幕を開ける。頂点を目指して出場するアスリートの中に、異色の柔道家がいる。女子48kg級の角田夏実だ。
「異色」とされるのにはいくつもの理由がある。
角田は31歳で晴れの舞台に初めて出場する。日本柔道史上最年長の記録となる。
それだけではない。日本代表として活躍するほとんどの選手が強豪として知られる大学、あるいは高校出身であるのに対し、角田は強豪の範疇からは外れる東京学芸大学を卒業し、大舞台までたどり着いた。
代表になっただけではなく、世界一に手が届くところにいる。世界選手権は2021年に優勝すると昨年まで3連覇を果たした。しかも全15試合、オール一本勝ちをおさめているのだ。優勝候補筆頭と言ってさしつかえないだろう。
遅咲きであったことは、高校時代を語る言葉にもうかがえる。
「高校のときの最高成績は2年生のときのインターハイ3位で、それ以上の成績は出ませんでした。頑張っても無理かなとあきらめかけていました」
転機となった大学進学、柔道部への入部
だから高校卒業とともに柔道をやめることも考えていた。それでも周囲に説得され、東京学芸大学に進学し柔道部に入部する。
それが転機となった。
「練習をがんがんやらされる感じではなかったです」
と表現する部の雰囲気があり、その中に自分のスタイルを尊重してくれる指導者がいた。立ち技で一本を獲ることを重んじる日本柔道界にあって、角田は寝技や関節技を得意とする独自のスタイルを持っていた。それを尊重してもらえたことで、柔道に積極的に励むようになった。
出会いは指導者に限らなかった。
「大学のOBの方でサンボや柔術をされている方がいて、そのOBの方が道場を部活で使っていない時間帯に一般の方たちと練習をしていました。その練習に、柔道の強化になればと思い、参加させてもらいました」
サンボや柔術に触れる中で関節技や寝技にさらに磨きをかけていった。