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将棋PRESSBACK NUMBER
「ヒート、体がバッキバキになるらしいですね」棋士・増田康宏26歳がNBAに学ぶ“AIと将棋のマインドセット”「食事や睡眠をイチから…」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byKeiji Ishikawa
posted2024/01/09 17:30
東京・将棋会館近くのバスケットゴール近くにて。増田康宏七段は、様々なスポーツからインスピレーションを得ている
「いや~もう随分と前ですね。今考えると、あの頃の自分は弱かったです。弱いから余計なことも考えず、7割くらい勝つことができていたのがよくなかったですね。今の自分が当時の自分と100局指すなら80勝、いや85勝はしたいと思うくらい弱かった。あの翌年に藤井さんに勝てたんですけど、実力は完全に藤井さんの方が上でした。当時は勝てて喜んでいただけですけど、自分はまだまだ弱い、ということを理解している今はちょっと違うと思います」
将棋のタイトルもNBAのチャンピオンリングも普通では…
――これから目指すものは。
「もちろんタイトルを獲りたいと思いますけど、将棋のタイトルもNBAのチャンピオンリングも普通では絶対獲れません。幸運に恵まれてタイトル戦に出ても、藤井さん相手にいきなり獲れてしまうものではないです。だから、まずは出てみないと課題も差も分からない。今はタイトル戦に出たいと心から思っていますし、もっと成長さえできればいけそうな気もしているんです」
――以前と今とでは、対局室にいる時の増田さんの様子は全く違う印象を受けます。いつも自然体で、緊張も気負いも感じさせることもなく戦い始め、淡々と勝っているように見えます。
「対局室に入って盤の前に座った時、もう勝負の結果は決まっていると思っているからかもしれません。相手もみんな強いですから、対局の時に必死になって勝つために頑張っているだけでは充分じゃない。重要なのは対局当日にベストで戦えるように準備ができているか、コンディションは整っているか、ということだと思っています。以前は、読みでは勝っていたのに疲れ果てて最後の最後の勝負に負けた、というような対局が何度もありましたけど、今では少なくなりました。またNBAから離れちゃいますけど、自分はF1ドライバーも参考にしました」
勝負を分けるのはマインドセットです
――F1……増田さんは完全にオールラウンドプレイヤーですね。
「いやあ、まだまだです(笑)。F1はマシンの性能が結果に大きく影響しますけど、ドライバー自身もランニングなどのワークアウトに取り組んで常にコンディションを整えています。レース終盤では蓄積した疲労によって認知機能が低下するそうで、取るべきではないリスクを冒したりすることを避けるためのようです。また、心肺機能を鍛えるとレース中のストレスにも強くなるようです。年間王者を続けるマックス・フェルスタッペンでも誰でも、日常と生活の規律で負ければレースにも負けるはずで、棋士も同じです。勝負を分けるのはマインドセットです」
――棋士が「マインドセット」という単語を口にするのを初めて聞きました。