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「子どもたちのために謝れ!」おかやま山陽監督がジンバブエで土下座した日「“自筆メモ”にスポーツ省が激怒」「外務省が関係修復に乗り出す事態に」

posted2023/08/20 11:06

 
「子どもたちのために謝れ!」おかやま山陽監督がジンバブエで土下座した日「“自筆メモ”にスポーツ省が激怒」「外務省が関係修復に乗り出す事態に」<Number Web> photograph by Getty Images

サッカーで遊ぶジンバブエの子どもたち。サッカーが大人気の中で野球を選び取った子どもたちのため、青年時代の堤尚彦はある行動をとる

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堤尚彦

堤尚彦Naohiko Tsutsumi

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 この夏、日大山形、大垣日大、日大三と日大付属の甲子園常連校を立て続けに破り、ベスト8入りを果たしたおかやま山陽高校。
 そのチームを率いたのが、堤尚彦監督だ。青年海外協力隊としてジンバブエで野球の普及に関わり、世界に野球を普及させるため甲子園を目指すという個性派監督のジンバブエでの体験を『アフリカから世界へ、そして甲子園へ 規格外の高校野球監督が目指す、世界普及への歩み』(東京ニュース通信社、2023年7月発行 講談社発売)から抜粋して紹介する。(全7回の第6回/前回は#5へ)

「手伝ってもらわなくても結構です」の書き置き

 プレーイングマネジャーを自称していた高校野球部時代に象徴されるように、私は体系だった指導システムに身を置いて学んだ経験が極端に少ない。思い立ったらじっとしていられない性格もあり、「習うより慣れよ」が肌に合うタイプの人間だ。

 単語レベルでしか話せなかった英語も、ジンバブエで生活する中で少しずつ上達している実感があった。中学、高校で授業こそ受けていたものの、英会話教室などには通った経験はない自分でも、「なんとかなるものだな」と感じたものである。が、この“独学頼み”が仇(あだ)となり、ある事件が勃発する。

 普及活動開始から約1カ月が経過し、ジンバブエの子どもたちにも野球のおもしろさが伝わる手ごたえ、巡回する学校が着々と増えて忙しくなってきた充実感を噛みしめていた。スポーツ省の担当者は、私の単独行動が気に食わなかったようで、「勝手なことをするな」とくぎを刺してきた。協力隊員の任期は約2年間と限られている。時間が惜しかったゆえの行動で、自分の意図を説明しようと担当者のオフィスを何度か訪ねるも毎度不在。業を煮やした私は、「自分でやるので、手伝ってもらわなくても結構です」と書き置きを残し、活動に戻った。

Don't disturb = 邪魔するな!

 それから数日後、件(くだん)の担当者が激怒しているとの話が耳に入ってきた。なんでも、私の書き置きにいたく腹を立てているとのこと。私は、「Please don't disturb my job」と記したメモを、担当者のデスクに残していた。

 英語に詳しい読者はおわかりになるだろう。「乱す」を意味する動詞である「disturb」は、かなり強い意味を持っており、「Don't disturb」となると、「邪魔するな!」といったニュアンスになる。メモを書くとき、私は以前ホテルで連泊した際に、部屋の清掃が不要である旨を伝えるために使用した張り紙の「Please don't disturb(起こさないでください)」を思い出した。なんの悪気もなしに「お構いなく」ぐらいの意味合いで使用したフレーズだったが、相手には「オレの仕事を邪魔すんじゃねえ」と伝わっていたわけだ。ジンバブエに来て間もないペーペーの協力隊員にこんな口を利かれたら、激高するのも無理はない。

両国の外務省が対応を協議

 すべては私の英語力の拙さに起因したもので、謝罪に赴こうとしたが、相手は謝罪を受け入れる気はないという。「あんたがスケジュール調整を先延ばしにしたのが原因なのに、なんでだよ」と、私も意固地になってしまった。

【次ページ】 謹慎中の『ダービースタリオン』

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