Number ExBACK NUMBER
「子どもたちのために謝れ!」おかやま山陽監督がジンバブエで土下座した日「“自筆メモ”にスポーツ省が激怒」「外務省が関係修復に乗り出す事態に」
text by
堤尚彦Naohiko Tsutsumi
photograph byGetty Images
posted2023/08/20 11:06
サッカーで遊ぶジンバブエの子どもたち。サッカーが大人気の中で野球を選び取った子どもたちのため、青年時代の堤尚彦はある行動をとる
「お前のために謝れって言ってるんじゃねえんだよ! お前がいなくなったら、野球を待っているブラワヨの子どもたちはどうなる? 子どもたちのために頭を下げろよ!」
モーリスの言葉にハッとさせられた。私が青年海外協力隊員となったのは、「世界に野球を広めたい」と思ったから。そして、実際に約1カ月間ジンバブエで活動し、野球を知らなかった子どもたちが、初めて触れるグラブやバットに目を輝かせ、夢中で白球を追う姿を目の当たりにしてきた。ここで私がつまらない意地を張り続けたら、子どもたちが野球に出合う機会すら消滅するかもしれない。そう思うと涙が出てきて、最後は真っ昼間のハンバーガーショップでモーリスと一緒に号泣。友の思いに触れ、私も本音を語り、泣きはらしたことで決意が固まった。私自身のちっぽけなプライドなんて、かなぐり捨ててしまえと。
土下座も…「嫌だな」という思いは微塵もなかった
外務省とJICAが間を取り持ち、件のスポーツ省の担当者への謝罪の場が設けられた。しっかりと下調べをした英語で謝罪するだけでなく、床に膝をつき、頭を伏せた。土下座だ。日本において最大級の謝罪の表現である。武士の時代には、自分の首を相手に差し出し、「首を斬られても構わない」という意味で使われていたこと……。これらを英訳し、意図を説明した後、床に頭をつけた。悔しいとか、「嫌だな」という思いは微塵もなかった。自分の至らなさに気づけたし、守るべきは、私のプライドなどではなく、ジンバブエの子どもたちが野球をする機会なのだと、明確に思えるようになったからだ。
<続く>