飯尾　真の狙いというか、森保監督もピッチ上で選手たちに解決してほしいと思っていた部分もあれば、選手たちから所属クラブでやっていることを聞かせてもらい、チーム作りに生かしたいと思っていた部分もあったり、4年半の間に試行錯誤してきたと思います。

　ただ、戦術面について、クラブレベルと比べて詰められていなかったのも事実。だからヨーロッパでプレーしている若い選手たちが不満を持つのも当然だよな、とは思っていました。とはいえ、代表チームとクラブチームを比べても意味がない。クラブチームが1年間、ほぼ毎日顔を突き合わせて練習をして、毎週末試合をこなしながら積み上げていくのに対して、代表チームは全員が集合して2、3日で試合をしなければならず、試合だって年間15試合あるかないか。

　しかもメンバーも変わるし、選手たちはクラブの戦術が頭と体に染み付いているわけで、代表チームなりのやり方がある。そのあたりのことは、ベテラン選手たちなら分かっているけど、W杯を戦ったことのない若い選手たちは、どうしても「ヨーロッパの自チームと比べて……」と思ってしまう。それも仕方のないことですけど。

「自主性の壁」を感じていた岡田武史

――そもそも飯尾さんはなぜ「森保体制を支持する」立場になったのですか？

飯尾　きっかけとしてはロシアW杯前、岡田武史さんにロングインタビューをした時のことです。その際に岡田さんが“日本代表がベスト16、ベスト8に行くためには、主体的にサッカーができるようにならなければ”といったことを話していました。

　どういうことかというと、日本人は国民性からか、主体的に考えることが苦手で、日本代表であっても試合中に問題が起きると指示待ちになりベンチの顔色を見てしまうと。それまでの日本代表で自立していたのは中田英寿、遠藤保仁、本田圭佑、田中マルクス闘莉王くらいだった。それは戦術・技術以前の話だし、欧州や南米と比べて最も劣っているという話を聞いて、ピンと来たんです。

南アフリカW杯に向けて指揮を執った頃の岡田監督　©Takuya Sugiyama

木崎　「自主性の壁」を、岡田さんはすでに南アフリカW杯で感じていたわけですね。

飯尾　いや、そもそもはマリノスの指揮を執っていた頃から感じていたみたいです。迎えたロシアW杯、急きょ監督に就任した西野朗監督は「自分は世界を知らないから、皆で話し合ってくれ」と選手たちに伝えました。その時は「ウソだろ？ 本番まで2カ月しかないのに」と感じましたし、実際のチーム作りも付け焼き刃的な部分は多かったです。

　ただ結果として選手間のディスカッションが深まり、イキイキとしたチームになってベルギー戦まで進みましたよね。そのチーム作りを森保さんはコーチとして見ていて感じるものがあったのでしょう。W杯後の就任会見でも「西野さんは我慢ができて、待てる人。選手たちに意見を出させて、それを集約してまとめていった」と話し、目指すサッカーとして「対応力をもち、臨機応変に、状況に応じて流れを掴むことを選手たち自身が判断して選択できるサッカーをしたい」と語っていました。

基本的に信念がブレることはなかったと

18年10月ウルグアイ戦　©Takuya Sugiyama

――ロシアW杯のプロセスで、主体性について重心を置いていたということですね。

飯尾　森保さんに監督就任2カ月後、インタビューをしたんですけど、その後の雑談のとき、ベルギー戦で2点リードを奪った際、5バックにして逃げ切ろうという考え方があったけれど、西野監督に進言できなかったことを悔やんでいました。その一方で「あのような状況になった時、ピッチ内で選手が対応できないとベスト8やベスト4に行けない」とも話していました。

　その時に「この人は主体的かつ自主的に戦えて、臨機応変に対応力を持った代表チームを作っていきたいんだな」と確信しました。その信念や覚悟にブレはないだろうか、本当にそういうチームになるんだろうか、という視点で4年間見てきました。

――つまり「親森保派」というより、そのチャレンジがどういう結果になるのか、というスタンスだったわけですね？

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