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森保ジャパンはW杯開幕5カ月前「選手が監督の真意を計りかねた状態」だった? 熟知するライター陣が明かす“変化のきっかけ”
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/01/02 17:00
カタールW杯前、9月シリーズのアメリカ戦で意思疎通を図る吉田麻也と森保一監督
飯尾 そうですね。もちろんこの4年間において、戦術面においては思うところは色々ありました。ただ、いろいろな困難に直面したり、批判に晒されたりしても、基本的に信念がブレることはなかったと感じています。
あと、もうひとつ。これは森保監督が強調していて大事なことだと思うので伝えますが、ただ待っているだけでは選手に主体性、対応力、臨機応変さは生まれない。ゼロの上には生まれないと。チームコンセプトやゲームモデル、相手分析や相手との噛み合わせの整理といったことがあるからこそ、選手も主体性、対応力、臨機応変さを発揮できるようになると。その辺りはまた、あとで話すことになると思います。
6月シリーズまでは「心理的安全性」がなかった?
木崎 ただ先ほども少し触れましたが……選手側の意見を吸い上げていくと、2022年の6月の時点でも監督の狙いと現実のギャップがかなりあったことも事実なんです。
飯尾 そうなんですよね。森保監督が「選手はどんどん要望してほしいし、自分たちスタッフもその意見をチーム作りに生かしたい、選手からも学びたい」というスタンスで、吉田麻也キャプテンも「監督は積極的にコミュニケーションを取ってくれるし、選手の意見にすごく耳を傾けてくれる」と言ってるのに、若い選手としては意見が言えていないように感じていたみたいで。
僕と木崎さんが共通で知っている、チームビルディングに詳しい仲山進也さんという方がいるんですが、その仲山さんは「心理的安全性」という表現をよく使うんですね。それで言うと、当時の代表チームにはまだ、若い選手たちが自分の意見を積極的に言えるような心理的安全性がなかった、ということになると思います。
木崎 たとえばですが、6月シリーズの合宿最終日、チュニジア戦(●0-3)後のことです。スタジアムから帰る移動中のバスの中で、ある選手が「俺たち、このままだとダメだろ」と言い始めたそうです。詳しくは遠藤航の近著に書かれています。そこからバスの中で戦術面についてかなり議論が出た。
その後、遠藤が森保監督のもとに行って「4-3-3のアンカーの部分が狙われていた」ことを伝えて、もし相手が狙って来たら、システムを柔軟に変えてもいいのでは? と提案した。そこでチームは解散となりましたが、腹を探り合うような空気は吹き飛んだのでしょう。9月のドイツ遠征では毎日のように選手ミーティングが開催されたと聞きました。
飯尾 そうして意見が活発になり、年齢に関わらず誰もが自分ごととして主張し、チームに関わる状態になったことは森保監督の望んでいたものだと思います。危機感からようやくそうした状況になったとも言えますね。
9月のドイツ遠征からチームの雰囲気が変わった
木崎 僕は9月のドイツ遠征を現地で取材していないのですが、チームの雰囲気がすごく変わったんですよね?
飯尾 まず森保監督の「伝え方」が変わったようです。これは実際、鎌田大地もハッキリと「戦術トレーニングやミーティングが以前とは変わった」と言っていましたし、守田英正も似たようなことを話していました。代表チームには以前からコンセプトや「ゲームモデル」と呼ばれるチーム内の攻守4局面それぞれの優先順位があった。それ自体はずっとあったわけですが、その伝え方がより分かりやすく、具体的になったようです。さらに「相手はこうくるから、こうする」という部分もかなり詰めて伝えられるようになった。