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《W杯名勝負》戸田和幸がスパイクを真似た1990年のロベルト・バッジョ、2018年の衝撃的に「凄すぎた」キリアン・ムバッペ
text by
戸田和幸Kazuyuki Toda
photograph byGetty Images
posted2022/11/09 11:00
1990年、地元イタリア開催のW杯で、バッジョは自らの存在を世界に知らしめた
名勝負としてここに挙げるのは恐縮なんですが、実際にピッチ上でワールドカップを経験した者として、2002年日韓大会のグループリーグ、ロシア戦はそれこそ忘れられない記憶となりました。ワールドカップでの初めての勝利というのは個人的にも、日本サッカー界的にも大きなものになったと思っています。
初戦のベルギー戦が引き分けに終わっていたし、まだ何も成し遂げられていない状況でしたから意欲自体はとても高かったし、緊張もありませんでした。中心選手の(アレクサンドル・)モストボイがケガで出てこなかったのは少々残念でしたが。
稲本(潤一)がゴールを決めたとき、後で映像を見ると僕は凄い勢いで抱きついていました。自分のテンションは相当に高かったんだなと感じました。
ただ、残り20分間が体力的にとにかくきつかった。早く終われと、心のなかでつぶやいていましたから。勝利した瞬間はホッとした感情しかありませんでしたね。ミッションという意味では終わっていないんですが、初めてのことを一つクリアできた実感を持つことはできました。
ムバッペの衝撃
実際スタジアムに行ってナマで見た試合での名勝負と言うなら、ロシア大会のラウンド16、フランス対アルゼンチンです。まずもってカザンアリーナのテンションがあまりに高かった。特にアルゼンチンサポーターですね。国歌が流れているときのスタンドを見ると、彼らが人生を懸けているんだなっていうのが伝わってきたほどです。このような異常な熱気を経験することなんてなかなかないだろうなって試合前に感じたことを記憶しています。
結果は4-3の打ち合い。一言でこの試合を表すならキリアン・ムバッペが凄すぎたということです。とてつもなく速かった。抜け出してPKを得て、アントワン・グリーズマンが先制のPKを決めたのが始まりで3、4点目はムバッペのゴール。あっという間にゴール前に迫っていきました。
アスリートレベル、インテリジェンスレベル、技術レベルがいずれも高い、新しい時代の象徴的な選手だと、世界に対して強烈に印象づけた試合にもなりました。
内容的にはフランスが圧倒していました。この試合が一つのターニングポイントになって優勝に辿りつくことになります。