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<マルケス再び戦線離脱>転倒がつきもののバイクレースで、偉大な王者たちは怪我とどう対峙したか…ノリックなど“日本勢”の場合は?
posted2021/11/12 06:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
昨年、右腕上腕を骨折する怪我で戦列を離れ、今年の4月に復帰したばかりのマルク・マルケスが、トレーニング中の怪我で、再び戦列を離れた。マルケスは10月30日に行ったモトクロストレーニング中に転倒。頭部を強打して脳震盪を起こし、その影響で11月7日の第17戦アルガルベGPを欠場した。その後の検査で第4脳神経の麻痺が明らかになり、第18戦バレンシアGP(最終戦)とそれに続くスペイン・ヘレスの公式テストをキャンセルすることが所属するレプソル・ホンダから発表された。
マルケスは、アメリカズGP、エミリア=ロマーニャGPと2連勝(今季3勝目)を達成し、1週間のインターバルで開催されるアルガルベGP、そして最終戦バレンシアGPの2連戦では、さらに優勝回数を伸ばすのではないかと注目されていた。
チームによると、自宅で静養していたマルケスは視力に異変を感じ、体調が悪化したことからバルセロナ市内の病院で検査を受けることに。その結果、Moto2クラス時代の2011年のマレーシアGPの転倒の際に頭を打って痛めた第4脳神経の麻痺が確認され、経過を見守ることになった。第4脳神経が麻痺すると垂直方向の眼球運動が損なわれ、視界に2つの像が重複して見える複視の症状が出る。通常は時間が経てば麻痺は消滅するが、11年の転倒の際は、3カ月が経っても回復が十分ではなく、右目の上斜筋の手術を行い翌年の開幕戦に間に合わせた。今回も「静養しながら経過を見守る」と医師は語っており、時間がかかることは間違いない。
コロナ禍の中で開幕が大幅に遅れた昨年は、MotoGPクラスの開幕戦となった7月のスペインGPで右腕上腕を骨折し、その後、3回の手術を行いシーズンを棒に振った。そして9カ月のブランクを経て今年4月の第3戦ポルトガルGPに復帰。右腕が完全な状態でないなか14戦して3勝を挙げ、完全復活も近いことをアピールするレースが続いていた中での欠場となった。
怪我に苦しんだ伝説のチャンピオンたち
思えばこれまでも、怪我の影響で苦しんだライダーは多い。僕がグランプリを転戦するようになった1990年以降でも、93年にチャンピオンになったケビン・シュワンツが、この年のシーズン後半戦に左手の舟状骨を骨折。舟状骨とは、手の甲を海とすれば、その海に浮かぶ舟のようなもので、骨折すると骨がつきにくいことで知られる。この骨を折ると、痛みがひどく力が入らなくなりマシンをコントロールするのが困難になる。そういう骨折をしながらシュワンツは、怪我を押して強行出場。その年のタイトルを獲得するも手の状態を悪化させ、ついに左手は完全な状態に戻ることはなく、その2年後、30歳で引退した。
90年から92年のチャンピオンで、そのシュワンツとタイトルを争い、ミサノで開催された93年のイタリアGPで転倒したウエイン・レイニーも、このときの転倒で頚椎を損傷して下半身不随となり、引退した。怪我をしたときは32歳だった。