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「たこ焼きにつま楊枝ついた」世界の盗塁王(1065成功)なのにユルい解説・福本豊 ドラ7→偉大でオモろい伝説《祝74歳》
posted2021/11/07 06:01
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Sports Graphic Number
筆者は15年ほど前、旅行会社のPR誌の編集長をしていたが、その企画で福本豊に話を聞いたことがある。
関西人は秋になるとこぞって北陸にカニを食べに行く。近年は「民族移動」と言ってよいほど大規模で、日帰りのバスが大阪のキタやミナミから何台も出発する。お目当ては日本海のズワイガニだ。筆者は「行くぞ、北陸、カニ食べに」というキャッチフレーズでキャンペーンを打って、カニ好きだという福本に登場してもらったのだ。
松葉ガニなどタグ付きの高価なブランドカニを食べるのか、はたまたバルダイ(オオズワイガニ)の太い脚にかぶりつくのか、と思ったが……意外なことに福本は「セコガニが好きやねん」と言った。
セコガニとはズワイガニの雌のことだ。小さくて足はほとんど食べることができないが、卵巣が美味。11月の解禁日から1月末までしか食することができない珍味ではあるが、高ければ数万円する雄のズワイガニに比べて、セコガニは一杯数百円程度、季節には地元学校の給食にも出たりする。
「セコガニを湯がいて皿に山盛りにして部屋に持ってきてもろて、それを一晩かけて食べるねん。あとは何もいらへんねん」
福本は語った。確かに食通のうちではあろうが、天下の盗塁王が夜っぴて小さなカニの解体に執着している図は、ちょっと想像がつかない。一つのことにこだわり続けて大成した選手ならでは、ということになろうか。
ドラフト翌日「新聞にお前の名前載ってるで」
アマチュア時代の福本豊は、ほとんどノーマークの選手だった。松下電器に加藤秀司という強打者がいて、その試合を見に行ったスカウトが試合で大活躍した小さな選手に目をつけて「あれもとっとこか」ということになったらしい。福本本人もドラフトを全く意識していなかったが、翌日のスポーツ紙に「お前の名前載ってるで」と同僚から教えてもらって、初めて指名に気が付いたという。
阪急はこの1968年のドラフトですさまじい成果を上げた。
1位 山田久志(富士製鐵釜石)投手:通算284勝
2位 加藤秀司(松下電器)内野手:通算2055安打
7位 福本豊(松下電器)外野手:通算2543安打
3人とも名球会入り。この年は法政大から阪神に田淵幸一、広島に山本浩二、明治大から中日に星野仙一、近畿大からロッテに有藤通世が入団するなど空前の大豊作年だったが、とりわけ阪急が大漁だった。