酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「たこ焼きにつま楊枝ついた」世界の盗塁王(1065成功)なのにユルい解説・福本豊 ドラ7→偉大でオモろい伝説《祝74歳》
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph bySports Graphic Number
posted2021/11/07 06:01
世界の盗塁王・福本豊。打者としても2543安打を放った名選手だ
なお、阪急はこの年のドラフトでは12位でクラレ岡山の門田博光を指名している。門田は入団拒否して翌年南海に入ったが、もし阪急に入っていたら――と考えると胸が躍る。
下位指名の福本への期待は大きくなかったものの、2年目の1970年にレギュラーとなり75盗塁で盗塁王。これは今でも史上7位という大記録だ。そこから1982年まで13年連続盗塁王、1972年には当時のMLB記録をも上回る史上1位の106盗塁を記録した。通算1065盗塁は、2位広瀬叔功の596盗塁に400以上の差をつけるアンタッチャブルな記録だ。
イチローと比較されがちだがタイプは違った
福本豊はチームの後輩、イチローとよく比較されるが、打席での姿は全く違っていた。
身長180cmのイチローは、打席に入る前から入念に体を動かし、打席に立つや柔らかな身のこなしで、どんなコースであっても見事にバットの芯に当てて安打にした。「優雅」という言葉が似あいそうだったが、169cmの福本はせかせかと打席に立つと、バットを短かく持ってカチーンとボールを弾き返していた。
そして塁に出るや、ためらうことなく次の塁を奪ったのだ。「迷いがない」「潔い」のが福本の身上だった。パンチ力もあり、208本塁打を記録している。
イチローは軽い細身のバットを使ったが、福本は「ツチノコ型」と言われる太く、重く、短いバットだった。このあたりも大きく違っていた。
クイックモーション、守備でも多大な貢献度
筆者がひいきの南海は福本の被害甚大だった。とにかく塁に出れば二塁は確実。そうなれば続く加藤秀司、長池徳二の安打であっさり帰ってくるのだから。大阪球場のファンは「あんな足短いのに、なんで速いねん」とぼやいたが、投手の癖を見抜く技が抜群だったのだ。
野村克也は、福本の足を封じるためにクイックモーションを導入した。福本は投手が足を上げるタイミングで走る判断をするため、投手に足を上げさせず、すり足で投げさせたりもした。
V9時代、日本シリーズで阪急と5回対戦した巨人は、福本の足を封じるために捕手の森昌彦を中心にクイックに磨きをかけた。日本の先乗りスコアラーの先駆けの一人、小松俊広は、阪急の試合を偵察して福本のスタートから二塁までの時間を何度も計測し、何秒ならアウトになるかを割り出した。
そのデータをもとにシリーズ前の練習では、川上哲治監督と牧野茂コーチがストップウォッチを片手に、バッテリーのクイックの時間を何度も計測したという。小松さんからそのときのノートを見せてもらったが、投手ごとの細かな数字がびっしりと書き込まれていた。
クイックモーションの技術では、日本野球はMLBよりも明らかに優れているが、進化した背景に、福本豊の存在があったと思われる。
守備面でも福本豊の功績は大きかった。