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9年ぶり勝利のマクラーレンで、日本人エンジニア今井弘が見据える常勝軍団復活への道筋<テニス新女王ラドゥカヌも興奮⁉>
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2021/09/16 06:00
トロフィーを掲げ、スタッフとともに歓喜の記念写真に収まるリカルド(右)とノリス(左)
スタートでポールポジションのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)をかわして先頭に立ったリカルドは、その後もミスのない走りでフェルスタッペンに付け入る隙を見せずにトップの座を守り続けた。ノリスもスタートで3番手を維持し、7冠王者のルイス・ハミルトン(メルセデス)からの猛攻に耐えた。
その後、ピットアウトしたハミルトンがコースに復帰した際、フェルスタッペンとサイド・バイ・サイドのバトルとなり、両者は接触。2台はグラベルへコースアウトし、フェルスタッペンがハミルトンのマシンに乗り上げる形で、そろってリタイアとなった。
これで完全にレースの主導権を握ったマクラーレンの2人は、高速モンツァ・サーキットで歓喜の1−2フィニッシュを飾ったのである。
マクラーレンの優勝は、12年ブラジルGP以来9年ぶり。今季、1−2フィニッシュはレッドブル・ホンダもメルセデスも達成していない快挙で、全米オープン・テニスのラドゥカヌにも負けない衝撃的な勝利だった。
この優勝はフェルスタッペンとハミルトンのタイトル争いを繰り広げる2人の脱落によって、転がり込んだものではない。優勝候補の2人が接触したとき、マクラーレンの2人はすでに1−2体制を築いていたからだ。もちろん、そこにはレッドブル・ホンダとメルセデスが珍しくどちらもタイヤ交換作業に手間取ったという幸運はあった。しかし、モンツァでマクラーレンがタイトル争いを繰り広げるレッドブル・ホンダとメルセデスと同等の速さがあったことは間違いない。そのスピードはイタリアGPの週末に突然、授かったものではなく、長い時間をかけて自ら手にした努力の結晶だった。
日本人ダイレクターが語った勝利の必然
09年からマクラーレンに在籍し、昨年からダイレクターレースエンジニアリングとして、レースの現場でエンジニアたちを束ねている今井弘はこう語る。
「いまのマクラーレンは、チームとして一丸でやろうという姿勢がはっきりしてます。今日の勝利もワンチームとして戦うといういい雰囲気があったからだと思います」
マクラーレンの優勝が確実になったレース後半、こんなことがあった。2番手を走るノリスが「この作戦で本当にいいのか?」と無線でチームに尋ねた。その時点でノリスのほうがリカルドを上回るペースだったからだ。しかも、リカルドはすでに優勝を経験しているのに対して、ノリスは優勝未経験。さらに、リカルドが今年マクラーレンに移籍してきたのに対し、ノリスは今年で3年目でマクラーレンでは先輩だった。つまり、ノリスは暗に自分がトップの座を譲られてもいいのではないかと問いかけたのだ。