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野球は「青春ドラマ」に向かない? レジェンド高瀬昌弘監督が語っていた“ラグビーの扱いやすさ”とは
posted2021/01/09 11:00
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph by
Kyodo News
お正月の高校スポーツといえばラグビーとサッカー。そして高校を舞台とした青春ドラマといえば、昔からこの2競技ばかりが題材とされてきた。またこの両競技は数々の青春ドラマにおいて繰り返し題材とされることで、競技人口を増やし、維持してきた歴史がある。それはなぜなんだろう?
今でこそラグビーもサッカーも花形スポーツではあるが、昭和30年代あたりまでは、まだかなりマイナー視されていた。サッカーが現在のポジションを築いたのは1993(平成5)年のJリーグ発足や、その5年後(1998年)となるW杯初出場あたりで、それ以前にサッカー人気が爆発したのは68年メキシコ五輪での銅メダル獲得が大きかった。
ラグビーに関しては数々の青春ドラマの題材となったおかげで、高校でラグビー部員を獲得してきた側面がある。戦後の花形スポーツといえば、圧倒的に野球なのだが、野球はアニメ作品との相性は良いものの、不思議と映画化、ドラマ化された作品は人気のわりに意外なほど少ない。
相性の良さを知らしめた『青春とはなんだ』
逆にラグビーはなんで青春ドラマとの相性が良かったのか? これは日本テレビ伝統の学園青春ドラマシリーズの第1作『青春とはなんだ』(昭和40年・日本テレビ)にまで話はさかのぼる。この『青春とはなんだ』の原作者は石原慎太郎。同年夏には実弟・石原裕次郎主演で映画化(日活)もされているが、TVドラマ化したのは東宝系の制作陣、スタッフだった。
物語は石原慎太郎版『坊ちゃん』という感じ。主演は夏木陽介で、マドンナ教師が藤山陽子で、若き夏木に理解を示すベテラン教師が加東大介で、下宿先の親父が宮口精二と元・七人の侍が脇を固めている。米国帰りの夏木がラグビー部長に就任し、生徒たちをビッシビシと鍛えつつ、田舎の古い慣習や街を牛耳るヤクザ者にも戦いを挑みつつ、フェアプレー精神を叩き込む痛快ストーリーだ。
NHK大河ドラマの真裏、日曜夜8時から放送されたこのドラマは大ヒット。すぐに石原慎太郎の原作ストーリーを使い切り、途中から「原案・石原慎太郎」となり、オリジナルストーリーとなる。後のスポーツ界にとって大きかったのは、黎明期のTVドラマ制作陣(主に映画界から転じてきたスタッフ)に「ラグビーの扱いやすさ」を知らしめたことだった。
ラグビーその物のシーンは、エキストラの高校ラグビー部員に任せつつ遠目に撮影。ラグビーの素人である俳優にボールを手に走らせれば、それなりに画面に映える。その際、俳優の顔とボールが同じ画面に入るのも絵作り的にドラマ向きだった。
また、スクラムのシーンでは遠目にはエキストラに頼り、アップでは下から俳優が歯を食いしばる表情を撮影。そして何よりも、ゴールキックのシーンで、マドンナたる女子生徒が祈るようなシーンを挿入可能で、男臭くなりがちな画面に一服の清涼剤たる彩りを添えられる。ドラマ制作陣にとって、ラグビーはまさにうってつけの素材だったのだ。