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空手・組手の女王、植草歩が味わった敗北の絶望 “根拠のない自信”を得て再び頂点へ!
posted2020/11/04 06:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Yuki Morishima(D-CORD)
2人で相対し、突きや蹴りなどの技の攻防を繰り広げポイントで勝敗を決める空手競技の組手。3分間という競技時間があっという間に感じるほど、多彩な技とスピーディーな展開で見ているものを魅了する。
「組手をやっていて一番楽しいのはやっぱり勝つことです。相手にどう対応するか戦略を考えることが好きで、駆け引きを楽しんでいますね」
しかし、空手女子組手界の第一人者・植草歩は、幼い頃は「組手が嫌いだった」と笑う。
「今は女の子も増えていますが、私が子どもの頃は男の子が圧倒的に多い世界で、練習でも対峙するのは男の子が多かったんです。当時は、怖いな、嫌だなと思いながらやっていましたね」
小中学生の頃は目立たない存在だったというが、その後、めきめきと頭角を現し、気が付けば、日本のみならず、世界トップの空手家として注目を浴びるようになった。
徐々に「私が勝たなくてどうするんだ」と
女子組手68kg超級の世界ランク1位も経験した植草は、'17~'19年プレミアリーグの年間チャンピオンに輝き、個人組手史上初の全日本選手権4連覇も達成した。得意とする中段突きで世界の頂点にまで上り詰めた。
「私、本当に不器用なんですよ。コーチや監督に求められる動きもすぐにできないくらいで。運動神経がいい人が“うさぎ”なら、自分は“亀”。すぐに上達できないからトレーニングや空手自体も試行錯誤しますね。でも、だからこそ長く競技を続けられたんだと思いますし、強くなることもできたのかなと思います」
初めて全日本王者に輝いたのは社会人1年目、23歳のとき。決勝で3連覇を狙った母校・帝京大の先輩、染谷香予を10-7で破った。以来、一昨年まで同大会で4連覇を果たしているが、年を重ねる度に、徐々に「私が勝たなくてどうするんだ」という強い気持や女王のプライドも芽生えたという。
だが、昨年は得意の中段突きが研究され、思うようにポイントが取れず、苦しい1年となった。数年間、右肩上がりで来ていた競技人生だったが早期で敗退する大会も多く、社会人になってからの5年間で最も振るわない成績に終わった。5連覇を狙った全日本選手権の決勝もまさかの敗戦に終わった。