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「昔は裏切り者と散々叩かれました」 甲子園準V2度の名将、“20年不出場”の伝統校で「3年目の敗北」
posted2020/10/25 17:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
戦う舞台は宮城県だが、身にまとうユニフォームはグレーから淡い水色へと変わった。
仙台育英時代に幾度となく出場していた秋の東北大会も、佐々木順一朗が「ガクセキ」と呼ばれる福島県の学法石川の監督となってからは今年が初めてだった。
そのことについて試合後の囲み取材で報道陣から問われると、佐々木は淡々と答えた。
「宮城県での試合と言っても、実際に球場に来てみて昔のことを少し思い出したくらいです。柴田高校さんとも、僕としてはいろんな対戦の歴史はありますが、懐かしがったりはしていられませんでしたね」
佐々木の表情は温和だったが、学法石川は宮城県第3代表の柴田に2-7で屈した。5回に2点を先取しながら6回に一挙4点を奪われ逆転されると、7回にも3点を追加された。点差からもわかるように、完敗だった。
「負けるとしたらこういう展開だろうな、と」
指揮官は、悟るように言った。
「甲子園が遠ざかってしまったプレーはどこなんだろう?」
投打ともに成長過程にあることは、佐々木が福島県大会から言い続けてきたことだった。故にこの柴田戦では、その未熟さが出たということになるのだろう。
打線で言えば、相手投手のスライダーを打ちあぐねた。佐々木いわく「特に試合前半は、ただ来たボールを打っているだけでした。それでは試合になりません」と、厳しい評価を下していたほどだった。
試合を振り返る過程で、佐々木は「甲子園」と口にした。秋季大会は翌春のセンバツに直結する大会だ。だからこそ、勝負の厳しさをチームに注入したいと言わんばかりに、報道というフィルターを通して選手たちに訴えかけているようでもあった。
「福島県で言えば、聖光学院はすべてのプレーが甲子園に繋がっているんです。だから、夏は14年連続で優勝できているわけです。うちの選手たちも、『甲子園が遠ざかってしまったプレーはどこなんだろう?』と真摯に向き合ってくれるようになれば、少しは甲子園に近づくんじゃないかと思っています」
試合は完敗だったとしても、佐々木が穏やかな表情を崩さなかったのは、チームの伸びしろを信じているからである。
佐々木が話していた「三段階のプラン」
このとき、佐々木が以前、話してくれた「プラン」を思い出した。それは、選手の成長の段階を示したものである。
1年目は「失敗から学ぼう」
2年目は「今までやってきたことを、少しずつ試合で形にできるようにしよう」
3年目は「失敗や経験を通じて、力をすべて出し切れるチームになろう」
佐々木が2018年11月に学法石川の監督となってから、3年目に突入した。つまり、チームは最終段階に突入したことになるはずなのだが、佐々木は「いやいや」とやんわりと否定し、深謀を説明する。