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実況アナから見た無観客試合の景色。
静寂な球場で野球の魅力を伝える。 

text by

田中大貴

田中大貴Daiki Tanaka

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photograph byKyodo News

posted2020/03/05 11:50

実況アナから見た無観客試合の景色。静寂な球場で野球の魅力を伝える。<Number Web> photograph by Kyodo News

プロ野球は3月15日までのオープン戦全72試合を無観客で行うことにしている。

音や空気を伝えられるよう「黙る」

 長年、放送に携わってきた中継スタッフたちも、無観客の試合をどう観せるべきか、プロとして熟考を重ねていました。実況席の後方には必ず音声スタッフがいて、多くのボタンやレバーが並ぶ音響機材を操作しています。ゲーム前の打ち合わせで、音声スタッフはこう言っていました。

「とにかく良い音を、臨場感のある選手の声を、より効果的に出したい。音声担当をはじめとする、中継スタッフの腕の見せ所です」

 ボールとバットが当たる瞬間に合わせて音を拾い、ボリュームを少し上げ、ノイズを除いてクリアな打球音を放送。ベンチから上がる選手の声は、集音マイクの位置を調整し、ピンチの場面、チャンスの場面でよりダイレクトに放送に乗せていきます。

 僕らコメンタリーも、できるだけ球場の音や空気を伝えられるよう、音を聞かせる場面だと判断して、時に「黙る」という選択をしました。

 中継カメラマンたちも、観客席のファンの表情やスタンドの応援を撮れない分、選手の顔を撮ったり、ベンチの様子を撮ったり、ゲームの中で何を観てもらうかを意識して撮影していました。

ファンがいてこその野球だと。

 あるベテラン選手は、こうも言っていました。

「試合中の僕らの声を聞いて、子どもたちは『自分のチームをベンチから大声で応援したり、プレーに関して指示を送るのはプロも同じなんだ』と思ってくれるでしょう。プロ野球選手だって基本があって、今があるんです。無観客試合だからこそ、僕らの声を聞いてもらっているという事を意識して、ゲームに臨みたい」

 この日、楽天のユニフォームを身にまとい、古巣のロッテ打線を相手に先発登板した涌井秀章も、試合後にこう話しています。

「ZOZOマリンでのロッテ戦登板でしたが、今日は冷静でした。ただ、ファンの皆さんがスタンドに入って、いろんな声や声援が聞こえていれば、違った感情が込み上げてきたと思う。ファンがいてこその野球だと、改めて教えてもらいました」

 選手もファンと同じで、観客がいない試合だからこそ気づくことがある。僕ら野球中継に携わる人間も、それは同じです。観客が球場にいないからこそ、できることもあります。

 画面越しに繋がる、選手とファンの絆。この絆は開幕戦が行われるまでの2週間で、更に強くなっていくと感じました。事態が終息して球場にファンが戻ってきたとき、選手たちは例年以上の大歓声に包まれることでしょう。

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