水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
水沼貴史が衝撃を受けた1977年1月。
静学のドリブルと井田イズムは今も。
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/01/15 20:00
今回の選手権決勝、井田勝通氏は静岡学園のベンチで戦況を見守った。対戦相手の選手として水沼貴史氏も“静学”と井田イズムの凄みを味わった1人だ。
独特のリズムを残して勝つチームに。
敗れた青森山田も今大会の戦いぶりは見事でした。ここまで対峙してきた高校はどれも強者ばかり。優勝候補としてのプレッシャーのなかで、どの試合も強度は高かったはず。セットプレーの流れから3点目を取るチャンスがあっただけに、静学にリズムを与える前に仕留めたかった。気持ちのこもった同士の試合は、一瞬の隙が勝負を分けるものなんです。
今年の青森山田は、プレミアリーグでもよく試合を観てきましたが、弱点がなく、すべてができるチームでした。攻撃もさることながら、守備の徹底ぶりもすごい。サイドハーフが戻って6バック気味になることも厭わずやる。前に出れば、10番の武田英寿がタメを作り、後ろの選手たちの上がる時間を作る。
各々のスキルも高いですから、しっかりとパスも繋げるし、ダイナミックに攻めることもできる。さすが雪国で鍛えてるだけあるなと感じていました。
ただ、一時期、プレミアリーグで逆転される試合展開が続きました。そこから選手権に近づくにつれて立て直した印象でしたが、準決勝の帝京長岡戦では終盤にやや苦戦した。この試合こそ逃げ切れましたが、決勝では課題としていた部分が、最後の最後で少し顔を出てしまったのかなとも感じました。
一方で今年の静学はそこに「勝てる」要素が加わりました。中でもセットプレーで強さを発揮していましたね。拮抗した決勝でも、松村優太らのマークが厳しくなる中で、後ろの選手が点を取れたことはとても大きかった。
パスとドリブルで崩すという攻撃がある中で、セットプレーで仕留める力が備わってきた。つまり、静学の独特のリズムを残しつつ、勝つチームになった。
環境の変化がありながらも、川口修監督がしっかりと伝統を継続し、積み重ねて、今年は勝てるサッカーを植え付けた。そんな印象を受けた優勝でした。
日程など見直すべきだが魅力はある。
<育成において「勝つだけではダメ」という議論はこれまでも継続して行われてきたが、自身も選手権で成長できたと語る水沼氏は、育成年代こそ「勝利」にこだわる意義を力説する。>
育成において勝利ばかりを求めることは難しいですが、やはり高校サッカーを選択している子たちは「勝つこと」を目指している。代表メンバーを見ても、Jクラブユース出身者が高体連出身者を上回る時代になり、部活のあり方や選手権の意義が議論の対象になることもあります。それでも、「選手権の決勝で勝ちたい」、「選手権のピッチで勝利したい」と思う子はまだまだ多いと思うんですよね。
すべては選手たちの選択。どっちがいいとか、悪いとかではないんですよね。この舞台を求めている子たちがいるからこそ、あれだけの人が集まる(決勝は史上最多の5万6025人を動員)。人を惹きつける何かの魅力があるわけです。日程など、見直していくことはありますが、一発勝負、真剣勝負を学べる大会を改めて大事にしたいと個人的には思います。