球体とリズムBACK NUMBER
イニエスタ今季初得点は魔法みたい。
ビジャとお辞儀、日本での順応ぶり。
posted2019/06/20 11:50
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
J.LEAGUE
世界を制したスーパースターが交代の際、ピッチにお辞儀をしてベンチに戻る。しかも2人もだ。こんなシーンは、今の日本でしか見られない。
それは6月15日に行われたFC東京対ヴィッセル神戸戦でのことだった。87分にダビド・ビジャ、そして後半ロスタイムにアンドレス・イニエスタが交代する時に、この国の文化と芝生に敬意を表した。
黄金期のスペイン代表の主軸を担った2人はこの日、久しぶりにともに先発し、首位を走るホームチームに1-0で勝利。唯一の得点は、6試合ぶりにリーグ戦に先発した背番号8が決めたものだった。
瀬戸際の勝負を決めたイニエスタ。
トルステン・フィンク新監督は初陣となったこの試合で、イニエスタと山口蛍を中盤の底に置く4-4-2のシステムで臨んだ。「FC東京は本当に強いチームで、弱点らしいものはない。だから自分たちの強みを生かそうとした。すなわち、アンドレス・イニエスタのゲームを支配する力を」と新指揮官は意図を説明。そのプラン通りに、神戸は序盤から35歳のMFを中心にボールを回していった。
しかしリーグ最少失点を誇るホームチームは、守勢に回ることを苦にしない。神戸のポゼッションを自陣で断ち、すかさず仕掛けるカウンターから、ディエゴ・オリヴェイラや室屋成、矢島輝一らが次々に神戸のゴールを襲っていった。
対するヴィッセルも小川慶治朗がバーを叩くなど、丁寧な攻撃をシュートまで繋いでいく。FC東京から受けた攻撃は、見事なセーブを連発したGKキム・スンギュを中心にしのいでいった。
「どちらに転ぶかわからない試合だった」とフィンク監督が振り返った一戦。瀬戸際の勝負を決定づけたのは、特別なマジックだった。
49分、左サイドでボールを受けたイニエスタは、ボックス内にするすると前進してクロスを上げる。右サイドに流れたボールが西大伍に渡り、再びファーサイドに浮き球が送られると、ボックス左角の内側で受けたイニエスタがGKの右手側にシュートを決めた。