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東京Vとロティーナの窮地を救った、
井上潮音は勇敢で巧くてクレバー。 

text by

海江田哲朗

海江田哲朗Tetsuro Kaieda

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photograph byGetty Images

posted2018/12/01 17:00

東京Vとロティーナの窮地を救った、井上潮音は勇敢で巧くてクレバー。<Number Web> photograph by Getty Images

井上潮音を称えるロティーナ監督。ヴェルディにとって久々のJ1復帰まで、あと2勝だ。

都並の興味深い井上評。

 逆風下、周囲からの信託を受け、重責を背負う立ち位置は望むところだったはずだ。

 東京Vのアカデミーで育った井上を知り、先日、関東リーグ1部のブリオベッカ浦安の監督に就任した都並敏史は言った。

「昔から上手な選手ではあったね。反面、戦う気持ちが前に出てくる選手ではなかったから、自分が監督だったら試合で使わなかったかもしれない。ジュニアユースで潮音に10番を与え、積極的に鍛えていったのは森(栄次)さんだよ。別の指導者であれば、埋もれていった可能性はある」

 森は昨年まで日テレ・ベレーザの監督を務め、現在は東京VのU-12、U-15アドバイザリーコーチを務める。

「目を惹いたのは、トラップであり、ボールタッチに特有の柔らかさがあったこと。キープする際の懐の深さ、相手との間合いをはかり、すっと前に出る運び出し方もよかった」

飛びぬけた部分を評価して。

 むろん、欠点がなかったわけではない。

「頑張ろうとする気持ちはあったと思います。けれども、それが表には出てこない、感情表現が苦手なタイプ。ディフェンス面も難ありで、ろくすっぽやらなかったですね。もちろん、将来的にプロとしてやっていくうえで、足りない部分はある程度埋めていかないとダメなんですが、飛び抜けた部分を評価して伸ばしていくのがヴェルディの育成の取り柄ですから」

 現役時代、読売クラブでプレーした森は、守備の人として知られる。対戦相手にハードタックルを見舞い、えげつなく削りまくったそうだ。しかし、それ以前の森はボールコントロールで勝負する、テクニシャンを自負していた。その補助線を引くと、違った断層が見えてくる。

 与那城ジョージ、ラモス瑠偉、戸塚哲也といった並み居るクラッキを前に、森はアタッカーとしての限界を知ったのだ。不本意ではあっただろうが、守備に力点を置く以外にチームで必要とされ、生き抜くすべがなかった。

 頼りない面もありながら攻撃に特長を持つ井上に、転向せざるを得なかったかつての自分を重ねたのかもしれない。

【次ページ】 10人で戦う中でも冷静に。

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