Jをめぐる冒険BACK NUMBER
J1初残留達成の湘南・曹監督の哲学。
目先の結果より、成長を志した末に。
posted2015/10/22 10:40
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
ペンを握る手に思わず力が入ったのは、10月17日のFC東京対湘南ベルマーレ戦、終盤でのことだった。
2-1と湘南のリードで迎えた87分、FC東京の選手とルーズボールを奪い合った湘南のキャプテン、永木亮太選手がその場に倒れ込む。どうやら両足が攣ってしまったようだ。苦痛に歪んだ表情でつま先をつかんでふくらはぎを伸ばしている。
普通なら痛みでしばらくは起き上がれないシチュエーション。ところが、永木はすぐに立ち上がると自陣に戻り、“ファイティングポーズ”を取ったのだ。
「(年間3位にいる)相手も今日は絶対に勝たなければならない試合だったと思うので、ボールを出して止めてくれることはないだろうと。あの時間帯、11人でもしのぐのが大変だったので、自分が欠けたら守り切れないだろうな、と思って」
この試合に懸ける、キャプテンの気持ちが伝わってくるシーンだった。
勝利から5試合遠ざかっていたが、勝点を獲得できればJ1残留を決められるこの試合。しかも舞台は2年前、J2降格が決まった味の素スタジアム。それだけに、湘南のボールへの執着心、カウンターの鋭さには「ここで決めるんだ」という気迫が感じられた。
なかでも鬼気迫るプレーを見せていたのが、前節出場停止の永木だった。右膝はテーピングで固められていたが、痛めていることを感じさせない気迫のプレーを披露した。その最たるシーンが、冒頭のものだった。
3度の昇格と2度の降格を経て、ついに……。
ゲームはそのまま2-1で終了し、湘南がJ1残留を決めた。
湘南は'09年、実に11年ぶりにJ1に昇格している。そのときから、3度の昇格と2度の降格を経験してきた彼らが2年続けてJ1でプレーするのは、初めてのことになる。
湘南といえば、よく走り、よく戦い、ハードワークするチームだ。
相手よりも少しでも早く反応し、少しでも多く走ってチャンスを作る。チーム力や技術で劣る分を判断力や走力で埋める――。それが“走る湘南”のスタート地点で、反町康治前監督(現松本山雅監督)時代に定着したチームカラーと言っていい。